Ci-en

 

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その少女、神聖につき 2

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薔薇の館の午後は慌しく過ぎていった。
仲直りしたばかりの黄薔薇姉妹は簡単な会議が済むと淹れたお茶を注ぐ間もなく部活にでかけ紅薔薇姉妹も一口すすったかどうかというところで所用があるのと言って連れ立って帰ってしまう。
一気に閑散とする部屋。
全く現金なものだと思う。
まあ良いのだけれど。
私だって会議の間中、あいた左手でずっと志摩子さんの太股を撫でまわしていたのだし。
みんな自分のことで手一杯で他人のことなんて見てる余裕がないのだ。自分ばかりだ。自分とその隣にいる人が良ければそれで良いと思っている。でも、まあ、それは、そうか。そんなものか。
ところで、私の隣にいる人は——。

太股を撫でる私の左手を両手で弱く掴んで、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「……どうして?乃梨子、どうして……?」
「どうしてって、志摩子さんのために決まってるじゃない」
「やめましょう、こんなこと、やめましょう……」
私は大きく一つため息をつく。

「志摩子さん、前もそんなこと言ってたけどね」
「…………」
「実際一時期やめたよね。それで、どうなった?」
「……どう、って……」
言うか、言わないでおくべきか。少し迷った。けれど結局言うことにする。
「私、知ってるんだ」
「何を……?」
「校内じゃ秘密になってるみたいだけど。一回、2年生のトイレで変質者騒ぎがあったよね」
「……!」
「2年生のトイレに、"何者かの体液"が付着しててさ。一部で大騒ぎになって、警察呼んで、鑑識の人もきて 、大変だったんだって。学外の変質者の仕業ってことで落ち着いたらしいけどね。でも、不思議だよね。警備員さんもいるしそんな変質者なんて入ってこれるわけないのに。おかしな話」
「の、乃梨子……」
「私それ聞いてああ大変だって思った。やっぱりちゃんと私がしてあげなくちゃって思った。志摩子さんは嘘ばっかりつくんだもん。あ、それともわざわざ学校のトイレでするなんて私に気付いて欲しかったの?」
「……」

でもそうさせたのは私かもしれないと少し思う。初めて志摩子さんにそれを見せられその事実を知ったとき、私はそれを狂ったように扱いた。痛い痛いと泣く志摩子さんの声を聞きながら、私も涙を流しながら執拗にそれを扱いた。なぜかそうせずにはいられなかったのだ。
結果、徐々に志摩子さんの声は痛みを訴えるものから快楽を漏れ出させるものに変わっていった。雨の降りしきる中異常な湿気を持った二人きりのこの部屋でそれは突然に暴発した。

曰く、初めてのことだったという。
それから私のネジはどこか、飛んだ。
志摩子さんのネジも外れていた。
多分私が外したんだと思う。私が触れなければ良かったのかもしれない。私が触れなくても遅かれ早かれ外れていたのかもしれない。それはわからない。しかし現実に私はもう触れてしまった。

初めの日、驚くほど、出た。
私も志摩子さんも怖くなった。こんなものが志摩子さんの/自分の中にあるなんて。

毎日、した。
膿を出し切ってしまうつもりだった。
それでも毎日毎日、どんなにどこで受け止めても、尽きることはなかった。それでも明日は尽きるかもしれない、明後日は尽きるかもしれない、全てなかったことになるかもしれない。
尽きることのないことを繰り返すのは私がそんな幻想のようなものを追い求めているからだろう。
一瞬の間幻想に浮かされたような安楽の表情になる志摩子さんを見て安心しているのもあるけれど。

「ねえ、志摩子さん」
「…………」
「無理することは、無いんだよ」
右手で優しく志摩子さんの髪を撫で、震える瞳を覗き込む。
「我慢して、辛かったんだよね。思わずトイレでオナニーしちゃうくらいに」
「でも、しちゃったあと、怖くなったんだよね。色んなものが。たとえば、自分とか。私も怖かったかな?」
志摩子さんは何も答えられずにただ唇だけをかみ締めて、ふるふると頭と髪を左右に揺らした。髪の軌跡がそのまま煌びやかな光彩の軌跡になる。私はその軌跡を掻き集めるように志摩子さんの頭を抱いた。
「やめよう、とか、できもしないこと言わなくていいよ。私は大丈夫だし」
細い体が腕のなかで嗚咽をあげる。くっ、くっ、としゃくりあげるのが私にも伝わってきていた。

「私は、志摩子さんになら、いつだってどこでだって犯されてもいい。何度でも、犯して、いいよ」
抱き締める私を抱き返そうとする力は無かった。
しかしその体は預けられていた。
私は自分がするべきことをする。
自分がしてあげたいことをする。
志摩子さんは何もしない。
私は犯して犯されるけど志摩子さんは犯してはいない。きっとそれはそういう事実でいい。悪いのは私。


——まずは軽くついばむように唇を重ねる。
ぴくりと震えるわずかの体の反応を頼りに私は舌をいれていく。自然と唾液の量が増えてくるのがわかった。相応に淫らになっていく私の体。からからに乾いていた志摩子さんの口のなかを少しずつ少しずつ潤す。
「う……くっ、あ!」
左手で肩を抑え、唇は触れ合わせたまま右手でピナスを触った。耳に感じる声と手に感じる熱さと硬さ。

……やっぱり私が悪いのだろうな、とピナスに触れながら改めて思う。初めはこんなに敏感じゃなかった。ディープキスになっているかどうかの境目くらいの行為ですらここがこんなにも屹立してしまうようになったのはつい最近のことだ。志摩子さんの肉体も相応に淫らになってきている。回と肌を重ねるごとに性感のあらゆる反応は顕著になってきている。
触れなければ良かったのだろうか。こんな清らな人にこんなものを与えた何かを憎むようにピナスを憎んで乱暴にがむしゃらにその器官にもしかしたらあるかもしれない神性を確認しようとしたのがいけなかったのだろうか。結局私が確認できたのはそれがまさに正しくただの雄の器官であることだけだった。幻想を現実にという意味のない希望のために身体を重ねてもやっぱりその器官のその器官としての当たり前の俗的な機能を確認してしまうだけだった。
私は罪の波浪への防壁を次々と穿っていっているのかもしれない。
いつか波に打ち寄せられてまみれて浚われてしまうのかもしれない。

「あ……」
志摩子さんから名残惜しげな声が漏れる。一旦ピナスから手を離したからだ。
「どうしたの?」
唇を離してわざと顔を覗き込むようにして聞く。羞恥にうなだれる志摩子さん。
「あはは、ごめんね」
口ではそう言いながら手を戻すことはせずに椅子に座っている志摩子さんの太股にのっかり、両手をその胸に添える。制服の上から手を探って下着をはずして股間のそれとは当たり前だけれど明らかにサイズが違う、しかし同じく屹立して硬くなっている胸の先端を摘んだ。
「んんっ……!」
まわりをきつく絞ってさらに先端を立たせるようにする。
「あっ、く、あ、ううんッ」
触れ合った股の間に感じるピナスの感触がさらに鋭敏になり、ひくひくと胸を揉むごとに動き私のその部分を叩いた。
乳白色に濁った意識のなか、その動きのノックが真っ白な光を私の頭の中に閃かせる。

「ねえ志摩子さん……、どんな気持ちだった?」
「普通の女の子にはこんなものないって知ったとき、どんな気持ちだった……?」
"こんなもの"という単語を発するとき、殊更にそれに自分の股をこすりつけながら聞いた。志摩子さんは茫洋と中空に視線を投げる瞳を一瞬曇らせただけで何も応えなかった。

昔志摩子さんが祐巳さまに言ったという「所属は足かせ」という言葉はきっと事実なのだろう。
肉体の不具や欠損、そして過剰……はいわばいつも突きつけられている鏡のようなものだと思う。普通の人のように鏡を見ずにしても、不具欠損過剰は、そこに、在る。何かをしようとしても或いは何もしなくてもその鏡はずっと突きつけられている。それは、肉体の一部でありながら肉体全体よりも精神全体よりも先に肉体として精神として確固として存在しているのだろう。
他の何ものにも所属できないくらい、志摩子さんはまずその肉体のその部分に所属して隷属して隷従している。
だから志摩子さんの存在はこうも清冽で希薄なのかもしれない。
だから志摩子さんは或いはその精神と肉体の確固たる「主人」を打破してくれるような更に確固とした存在を
求めるのかもしれない。
……しかし罪そのもののようなその身体。

一切の愛撫をいったんやめて、座位のまま志摩子さんと向き合って見つめ合う。
「乃梨子……」
ぼうっとつぶやく志摩子さんの身体を深く強く抱き締めた。
一瞬時間が止まっているような錯覚が訪れるが、外から聞こえてくる蝉の声がすぐにそれを破る。鼻先を志摩子さんの耳のあたりに埋めてその香りを嗅ぎながら、汗で滑る首と頬を重ねるように擦り合わせた。

「志摩子さん……挿れるね、今、挿れるからね……」
耳もとで囁くとひくりとした身体の震えが伝わった。

「ん……く」
「ああぁ、のりこ、のりこ……」
椅子に座った志摩子さんの肩をもちながら、爪先立って体を上げ、ピナスをあてがってから徐々に下ろしていった。
私の身体に打ち込まれていくものはまさに楔であって杭であると言えるかもしれない。
「あうっ……く、ぁ……」
苦しくて熱くて、つい声が漏れてしまう。思わず頭を振ると汗の飛沫が散って志摩子さんの顎が上がって上向いた額に落ちる。
髪が一筋二筋、口の端に挟まって。
楔は杭は十全に打ち込まれた。

腰をうねらせながら、少し息と感覚を馴染ませる。
「うぅ、あ、ふ……は、あ、う、動く、ね……」
ふうぅはあ、ふうぅはあ、とわななく息を重ねあわせながら志摩子さんの首を抱いて支えにし、入り口付近まで一旦腰を上げてからそこでわずかな前後運動をする。粘液の絡まる小さな、しかしその液質と同じように耳に張り付く音が聴覚に割って入ってきた。

「あ、う、は、あ……」
二種類の毒が身体を回っている。心臓からせっせ送り出されるこめかみと頭に熱く響く毒と、下腹からのぼってくる激痛でいて鈍痛のような甘い毒。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる毒が回って天井の木目が歪んで紫色になる。

酸欠になりそう……。
私は恐怖を感じて腰を止めるが、それでも目蓋の裏のチカチカと送り出される毒は全く止まってくれない。残った理性でどうして、と思って視線を落としたが、それは簡単なことだった。私が止まってももう一人が止まってくれないと刺激が止むわけがない。
「し、しまこさん、とまっ、て……! ちょっと、止まって、待って」
「え……?」
「しまこさん、とまっ……息、できな……い!」

ようやく動きが止まる。
「あ……のりこ、わたし……」
志摩子さんの表情はまるでおこりにかかった病人のようだった。朱の散った頬ととろんとした瞳、そしてそれとは対照的に寒さに震えるかのようにかくかくと揺れる顎と唇。
「はあ、はあ、ん……ご、ごめんね、志摩子さん……。少し、待ってね……」
「乃梨子、わ、わたし、夢中で……」
「あはは、嬉しい、よ……」
ぜいぜいと息を整えながら手足に力を入れようとするが全く無駄だった。なんとか身体を支えようと志摩子さんの肩においた手に力をこめようとしたものの、肘がかくんと折れ曲がりもたれかかるようになってしまう。

「ごめん、志摩子さん、私、力、抜け……ちゃって……」
「だ、だいじょうぶ……?」
「大丈夫、だよ……だから」
もたれかかってその細い肩に置いた私の頭のすぐ横にある形の良い小さな耳に動いてと一言伝えた。

「ふあ、ああ、ぅあ、ああっ、ああ……!」
「う……、く……」
志摩子さんは私の身体を強く抱きしめて、猛然と自らと私を揺する。
「ダメ、や……あ!」
内部からの衝動に力の入らない私の身体はただ翻弄され、脊髄をかけあがるものにお腹が、背が、肩が、首が、磔にされたかのような上半身が、跳ねる。
翻弄されながらもかろうじて力の入れることができる脚を椅子ごと志摩子さんの身体に絡ませ、その時を待った。

楔/杭が一瞬一層熱く大きくなる。
「ああ、や、は、あぁっ、あ、あ、ああ、あああ!」
「あ……く、のり、こ……」
いつものように楔/杭は抜かず私はそのまま受け容れた。
白く染まる意識。
白く染まっているであろう私のなか。
熱い。

「ふぅ……あ……」
数瞬たってもまだ背筋が震える。唇を噛んで耐えた。
「うく、……んは、ふ、は……」
ようやく力の入り始めた腕で志摩子さんを弱く抱き締めそっと囁く。

「も、もうすぐ、夏休み、だね……」
「夏休みも、いっぱい、しよう……?」
「…………ッ」
快感とは違うものに身体を震わせ、志摩子さんはまたぽろぽろと涙をこぼした。

地獄に落ちるならきっと私から。
でもこの楔/杭がある限り私は何度でも死を迎えるが何度でも復活できる。

今ちょうど六時半。
外ではヒグラシが鳴いている。
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