紅茶と姫

六月のしとしとと雨が降りしきるある日、薔薇の館に耳障りな音が響いた。

ガチャン。
「わっ」
「きゃっ」

手に持っていたお盆がつまずいた拍子に飛ぶ。
お盆はテーブルの上に落ちそうだったが……。
その上に載っていたカップは、一直線に椅子に座っている志摩子さんのほうへと向かって飛んでいった。

「あつっ!」
カップは志摩子さんの膝の上に落ち、割れることはなかったが中身である熱い紅茶をスカートに撒き散らしてしまっていた。

「ご、ごめん!」
あわてて叫びながらそのへんの余っているカップをいくつかとり、水道水を入れて志摩子さんの膝に盛大にかける。
やけどをしないように、という配慮からの行動。
……だったが、少々盛大すぎたかもしれない。


びしょ濡れの膝の上のカップをどけながら、すごく申し訳ない気持ちになる。
「志摩子さん、ごめんね。大丈夫?」
「ええ、多分……」
「良かった……。でも、ほんとにごめんね、熱かったよね」
「大丈夫よ、心配しないで、乃梨子」
「ごめんね、私のせいで。念のためにやけどしてないか、見るね?」
「え?……ええ……」

言って、スカートの裾に手をかけたところではたと気付く。
やけどしてないか見る……ってことはスカートをまくりあげて膝から上を見るってこと?
それはまずいんじゃないだろうか……。
戸惑ってふと視線をあげる。
すると、同じく戸惑ったような表情で足元に膝をついた私を見ている志摩子さんと目が合った。
少し不安げな瞳の色と、淡く色づいた頬の色。伏せ気味の長い睫毛。

……まずくない。
大変まずくない。
むしろおいしい。
こんなに綺麗な人の膝上を見れるなんて。
「の、乃梨子、どうしたの?」
「え、あ、いや、なんでもないよ。今見るね」
危ない。変に迷うそぶりを見せると怪しまれる。

自然に、自然に。
そう、私はやけどがないかチェックするだけ。
この機会に志摩子さんの太股を目に焼き付けておけだなんて、はしたない魂胆などあろうはずもない。

何気ないつもりの動作でスカートをするするとまくりあげる。指先がプルプル震えてしまうのを必死でおさえつける。
すねと、わずかにのぞくふくらはぎ。細くて綺麗。
小さくて丸くてかわいい膝小僧。
そのうえの、白磁のようなふともも。
そこから更にまくりあげようとしたところで手首を志摩子さんに掴まれた。

「の、乃梨子、それ以上は……」
「え?あ、ごめん!」
お、惜しい!
……じゃなかった。
やけどがないか確認するんだった。

「よく見てみるから、志摩子さんはちょっと裾持っててくれるかな」
志摩子さんの手に強引に裾を押し付ける。
自分のスカートの裾を自分でまくりあげて持ったかのような、ある意味で挑発的なポーズがはからずして出来上がった。
思わぬ光景に心の中で小さくガッツポーズ。

「乃梨子、は、はやくしてね……」
恥ずかしそうな志摩子さんの声が耳朶をうち、胸が高鳴る。
さらにその仕草が……羞恥に斜め下を向いた顔が、ちらちらと窺うように寄越される視線が
余計に私の胸をかきたてる。
「うん、わかってる」
頷いたものの、早く終わらせるつもりなど毛頭なかった。

まず、ふともも全体を見る。
やはり熱いお茶がかかったせいか、少し赤くなっている。
でも、それはやけどなんかの痛々しさを含む赤さとは全く別物で。
妖艶さと色気をかもしだす、淡く妖しい赤さだった。
ごくり、と自分が唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえた。

白く燐光を放つそれを目前にして、欲求に抗うことはできず。
思わず手をのばし、そっと触る。
「のり……こ……?」
志摩子さんは少し体をふるわせたが、そんなことは指先から伝わってくる感触に比べれば些事に過ぎなかった。
陶器のように滑らかですべすべしていて、でもさらっとしていて、暖かくて。
さっき濡れたせいもあってか、手にピッタリと吸い付くような。
柔らかくて、弾力もあって。
ずっと触っていたいという衝動にかられる。

さらさら、すべすべ、ふわふわ、あったかい。さらさら、すべすべ、ふわふわ、あったかい。
さらさら、すべすべ、ふわふわ、あったか・……
気がつくと私は夢中で志摩子さんのふとももを両手で撫で回していた。
やばい。

……もっとだ!
もっと撫でていたい!
私は顔をあげ、恥ずかしそうにしている志摩子さんにおもいきって告げることにした。
この天国のような感触をより長く深く味わうために。

「志摩子さん」
「……?」
「そんな風に股をピッタリ閉じてたら、間がどうなってるかわかんないよ」
「え?で、でも……」
「でもじゃないよ。やけどしてたらどうするの?ちゃんと見せて。あと、力抜いて」
逡巡する志摩子さんに、ね?と問い掛けるような視線を向ける。
私が信頼できないの?という意味も込めて。
今の私の頭の中を見れたら、信頼できるわけないけども。

「わかったわ……は、恥ずかしいから、あんまり見ないでね」
他人の頭の中を覗けるわけもなく、志摩子さんは私を信頼してしまった。
それとも、恥ずかしさのために冷静な判断ができなくなっているんだろうか?
どちらにせよ、ごめんなさい。
いただきます。

志摩子さんはさらに数秒間悩んだあと、ようやく納得したのか、力をゆるゆると抜いていく。
同時に私の手の中の感触がさらに柔らかいものへと変わった。
(うわ、なにこれ……!)
妙な感動を覚えながら少しだけ力をいれてふとももを手のなかでこねくりまわす。
ふにふにと、たとえようのない弾力。
指を食い込ませたい衝動を必死に押さえつけなければならなかった。

視界には、弛緩して広がった膝。とその奥。
……見えそうで見えない。
惜しい。
でも、これはこれで。
とか思いながら存分にすべすべした感触を楽しむ。
蛇のように手のひらが這いまわった。

「の、乃梨子、まだなの……?」
「…………」
「乃梨子、乃梨子ってば」
「……へ?……あ。あの、もうちょっと、もうちょっとだから!」
「?な、何を」
「……その、しょ、触診を……」
我ながらめちゃくちゃだ。

あんまり長く触って怪しまれても困るので(もう十分怪しまれてる気もするけど)
いい加減にしておこう。ああ、名残おしい……。
「……うん、大丈夫そうかな」
「そ、そう……」

なんとなく気まずい雰囲気が部屋を満たす。
やりすぎたかもしれない……反省と自己嫌悪が襲ってこようとしたとき、志摩子さんが口を開いた。

「あ、あのね、乃梨子。さっき水をかけてもらったときに……その……
 し、下着まで濡れちゃったから、保健室で替えを貰ってきてくれるかな……?」

……お安い御用ですとも!


ダッシュで保健室に行き、事情を説明してかわりの下着とタオルを貰った。
しかしまあさすが保健室というべきか、オシャレごころのかけらもないしろものだ。
こんなのを志摩子さんがはくなんて、なんかもったいないな……。
そう考えたときだった。
私の頭に天啓が閃いた。

なんとなく誰にも見られてないのを確認してから、さっとトイレに駆け込む。
下着を脱ぎ、保健室でもらったものにはきかえる。
そして、もともと自分がはいていたほうを保健室の袋に。
さいわいというかなんというか、おろしたての可愛くてお気に入りのものだった。
後はこれを、保健室でもらったといって志摩子さんに渡せば……。
(違うお口で間接キス……!?)

怪しい笑いを浮かべながら、私はトイレを後にし薔薇の館に向かったのだった。


「ただいまー」
「おかえりなさい」
部屋に入ると、さっきと同じ姿勢でちょこんと椅子に座っている志摩子さんが見えた。
なぜかスカートはまだ持ち上げたままで、形の綺麗な脚が剥き出しになっている。
また胸が高鳴る。

「志摩子さん、もらってきたよ」
「ありがとう」
「じゃあ、いま履き替えさせてあげるからね」
「ええっ?!そんな、自分で……」
「元はといえば私が悪いんだから、全部私がするよ」

混乱する志摩子さんに反論する隙を与えないためにまくしたて、さっと再びその前に跪く。
「や、やだっ」
嫌がって立ち上がったところを好都合とばかりに、半ば無理矢理に濡れた下着に手をかけするすると引き下ろした。
志摩子さんのイメージにぴったりな、淡い色だ。

……と。
ふとももの半ばまでおろしかかったところで気付いた。
志摩子さんの股間の中央から下着に向けてのびている、透明な一本の線。
水にはありえない粘性をもったそれは、けっこうな長さで下着と股を繋いでいた。
なんだろう、これ。

そう思ってじっと見つめているとそれは力を無くしたかのようにふっつりと切れ、ショーツのなかに落ちていった。
数瞬後、また股からするすると線が延びてきて。
ぱたりとショーツに落ちた。
それがニ、三度繰り返されて。
私はようやくその液体の正体に気付いた。

「志摩子さん、これ……」
「や、やだ、乃梨子、みないで!」
「……もしかして、さっき触ってたときに……?」

さらに落ちてくる液体に指を伸ばし、すくってみる。
指のなかで遊ばせると、にちゃにちゃと音がたった。
じっと見つめた後、なんとなくそのまま濡れた指を口に運ぶ。

「の、乃梨子、何して……!」
よくわからない味がした。
けれど、おいしいかもしれない……。そう思った。
もっと味わいたい……。そうも思った。

「志摩子さん、やっぱりやけどしてたんだね」
「え……?」
「ちゃんと消毒しないと」
羞恥に紅潮しているふとももに舌を這わせた。
「ひゃっ!」
たっぷりと唾液を含ませて、猫が毛づくろいをするように丁寧に丁寧に舐める。
舌の通ったあとが、てらてらと光る。
さきほど指先で感じた感覚が倍加されて舌に伝わってきて、おもわず背筋が震えた。
びくっ、びくっと定期的に体を震わせる志摩子さんの様子に満足を覚える。
加えて、さらに溢れだしてくる愛液。
白くてすべすべで暖かくて柔らかくて、……敏感で。
もう、最高だ。
膝の間に顔をさしこみ、頬擦りしながら舌で内股をねぶった。

「ああっ、うっく……の、りこ、ダメ……」
志摩子さんはうわ言のように、裾をもったこぶしを口元にあてながら呟いている。
「きもちいいくせに。濡らしてたくせに」
ちょっと意地悪に言うと、ますます顔を赤くして項垂れる。
そんないじらしい姿に頭の中心の熱くなった部分が刺激された。

「ああ、はあっ、ぅ……声、出ちゃう……」
唇をかみながら頭を左右にいやいやするように振って、絞り出された小さな声。

耳の間近まで口をよせて、そっと言伝。
「声が出ちゃうなら、スカートの裾をかんでみたら?」
志摩子さんは従順に裾をくわえ、これでいい?というように上目遣いにこちらを見た。

……。
可愛すぎる。

いてもたってもいられなくなり、私は顔を志摩子さんの秘所に近づけ、そこに舌をつけた。

「ううん、ん、んんっ……!」
びくびくと志摩子さんは体を震わせる。
舌の上には、とろとろと溢れ出す新たな液体の感触。
こくこくとわざと音を鳴らして飲み込んであげた。
快感のために完全に弛緩した両股に手を這わせることも忘れない。
自分の大切な人に奉仕する喜びを感じた。

少しいたずらがしたくなって、顔を離し、その存在を主張しはじめた小さな突起に息をふきかけてみる。
ひくひくと、体と一緒に震えるそこ。
面白い。
さらに何度か息をふきかけたあとに、不意打ちのように舌でつつく。
伝わる大きなふるえ。

そんなことを繰り返していると、さすがに耐え切れなくなったのか。
突然志摩子さんはあいている手で私の顔を自分の秘所に押し付けてきた。
「んんーッ!」
苦しげにあげた声は、どちらのものだったか。
それもわからないまま、私は志摩子さんの動きに応えようと鼻っ柱を熱い場所に埋めて激しく舌を動かした。

「あ、ああっ、あ、ああああ!」
志摩子さんの口からスカートのすそが離れ、はらりと私にかかる。
闇に包まれた視界を合図にしたかのように私は快感をむさぼるそこに強く舌をつきつけた。
「ーーーーーッ!!」

体を硬くし、私の頭を抱きかかえ、声もなく志摩子さんは果てた……。


ぽんやりと体を弛緩させている志摩子さんの体を、タオルで優しくふく。
半ば無理矢理やってしまったあとの罪悪感で胸がちくちく痛む。

着衣を整える段階になって自分の下着を志摩子さんにはかせるという事態にノリノリで興奮していたさっきまでの
自分を思い出し、あらためて頭が痛くなったが、今更どうしようもないのでそのままはかせる。
(私はなんてことを……したんだっていうかしてるんだっていうか)
目の前で自分の下着をはいている志摩子さんを見ると残り火がくすぶってしまうのを感じた。

「乃梨子……」
「し、しまこさん、ごめ……」
「ううん、いいの。いいのよ。私こそ、こんな姉で……ごめんなさい」
「そんな、私がひとりでつっぱしっていろいろしちゃって、志摩子さんがあやまることなんかぜんぜ……」

「……乃梨子」
まくしたてる私を少し強めに遮った。
「はい……」

志摩子さんは叱責されるかと体を固まらせた私を少しの間みつめ、ゆっくりと顔を近づけ、
そのまま唇を合わせた。

「ん……」
「……しまこさん!?」
「ほ、ほんとは、キスからが、良かったかな……」

はにかみながら呟いた彼女を、私は力いっぱい抱き締めた。

「志摩子さん、実は、私、ひとつだけ言い忘れたことが」
「なにかしら……?」
「志摩子さんがいまはいてるパンツ、私がさっきトイレで脱いできたやつなんだけど」
「……え?ええええっ!?」

なんか色々台無しだった。
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