戯れ

「祐巳さん、スキあり!」
「ぎゃうっ」

本格的な冬の訪れを感じさせる、北風とどんよりと曇った空。
その空の下にあるのは、いつもおしとやかで汚れを知らない無垢な少女達。のはずだったが……。
おしとやかさには少々欠けるやんちゃな生徒もいるようだった。

「つめたいつめたいつめたいーーー!」
「おっほっほ。祐巳さんの背中はあったこうございますなぁ〜」

カラーの襟元から、ずっぽりと入れられた由乃さんの手は
祐巳さんの素肌の背中にベッタリと張り付き這い回っていた。

まさに怪獣の子供のように暴れる祐巳さん。
たっぷり数十秒後、由乃さんはやっと手を祐巳さんの背中から取り出す。
「はぁー堪能堪能。だいぶあったかくなったよ」
「もお、由乃さん、やめてよぉ。ほんと心臓止まるかと思っちゃった」
「あはは、ごめんごめん。寒空のなかを凍えながら来たから。
 部屋でぬくぬくしてる祐巳さんが羨ましくってさー」
「私もいまきたところなんだからね!その証拠に、ほら!」

よっぽど冷たさが身にしみたのか、祐巳さんは普段の彼女からは考えられない機敏さで
由乃さんの背後にまわり、さっきされたように襟元から背に手をつっこむ。
「ひぃぃぃやぁぁぁぁぁぁああ!」
「おー。あったかーい」
「ゆゆ祐巳さんやめて!やめて!謝るから!つーめたーーー」

やっぱりたっぷり数十秒後、祐巳さんはやっと背中から手を取り出し。胸を張って言った。
「思い知ったでござるか由乃殿。これに懲りたらいたずらは慎まれぃ」
表情と仕草が妙でおかしくて、私はついくすくすと笑ってしまう。
「ああー、志摩子さん、他人事だと思って笑って……ぎゃ!」

祐巳さんが言い終える前に解放された由乃さんが反撃に転じ、再び手を背中に入れる。
「甘いわね、祐巳さん!敵に背を見せるとこうなるのよ!」
「ううううわぁああぁあ、こ、このぉッ!」
祐巳さんは冷たさに身をよじりながらもくねくねと怪しい動きで、手を入れられたたまま
自らの手を由乃さんに挿入。
「きゃあ!」
「どどどうよ由乃さん!あああったかつめたあーー!」
「ああわあたしも!あったかつめた!」
よくわからないことを叫びつつ、そのまま二人はわあだのきゃあだの言いながら小学生のようにじゃれ合う。

見てるだけで、微笑ましくて、楽しくて、なんだか胸の奥があったかくなる。
二人は、本当に仲が良い。

この二人が姉妹でも面白かったかなと、色んな想像をしながら眺める。

……。
「きょ、きょうはこのぐらいにしておいてあげるわ……」
「奇遇、ね……。わたしもそろそろ勘弁してあげてもいいかもと思っていたところよ」
「仕事もあることだし」
「ね」
「お姉さま達ももうすぐきそうだし」
「ね」

満足いくまでじゃれあったのか、二人の間で休戦協定が結ばれたようだ。
私も止めていたペンを動かすために書類に目を落とした。

「でもさー、祐巳さん」
「うん?」
「なんか理不尽じゃない?」
「……なにが?」
「私たちがこんなに全力で闘ったのを、横から眺めてニコニコしてた人がいるってことよ」

「……え?」
どうやら自分のことを指しているらしいと気付いて顔をあげる。
いかにもなにか企んでそうな由乃さんと、ふむと考えるようにしている祐巳さんがこちらを見ている。

「確かに不公平かも。なんだか私と由乃さんだけ貧乏くじひいたみたいな気分」
「でしょ?ここは一発……。それ!」

由乃さんは掛け声をかけると、私の肩に手をおき椅子に押さえつけた。
「祐巳さん、今よ!」
「へ……?あ、あ!……ラジャ!」

きょとんとしていた祐巳さんだが、たたたと駆け寄ってきて私の背後に回り背に手を入れた。
「ひゃ!」
さっきまでの格闘戦で動いたせいか多少暖かくなってはいるが、それでもまだまだ冷たい
てのひらが差し込まれる。ぞぞぞ、と悪寒が走った。
「つ、つめた……!」
「おほほほほ、一人で高見の見物しゃれこもうなんて10年はやいわよ!」
身をよじって逃げようとするが、押さえられてるために動けない。
勿論、力一杯本気で動けば動けるだろうが、友達相手という意識が抑制を働かせて
そこまでする気にはなれない。

「あったかーい、それにすべすべー」
祐巳さんが幸せそうにいいながら手を這わせる。
「じゃあ祐巳さん、交代ね!」
「ラジャ!」
さっと肩を押さえる手が祐巳さんのものにかわり、今度は由乃さんの手が入ってくる。
「ひゃああ!」
するすると背骨をなぞる感じで下ってくる。
「おお、これはいい触り心地ですなぁー。ぶっちゃけ祐巳さんの背中より気持ちいいかも」
「む、失礼な。でも志摩子さんの背中はほんと幸せな気分になるよね」
「うんうん」
「そ、そんな誉められ方しても……」

背後で行われる品評に不服を唱えるが、あっさり無視された。
別に由乃さんや祐巳さんの手が不快なわけではないけれど、冷たいものが這い回る感覚は
それとは別にけっこう気持ちわるい。
まあ仕方ない、確かに高見の見物をしていたわけだし。
と思って自身を抱き締めるようにして二人の攻撃に耐えていた、そのとき。


プチ

「あ」
「え?」
「うわ」

「し、志摩子さん、むね!むね!」

……ブラジャーのホックが外れていた。

「きゃ、いやあああ、よよしのさん!」
「ご、ごめん。やっちゃった……」
「わあ。わー。へー。ほー。ふーむ」
あわてて胸元を手でおさえ、前かがみになる。
これでますます身動きが……!
「こんな、も、もういい加減に」
そろそろ釈放してもらおうと思って口を開きかけると。


「……志摩子さん……、さわっていい?」


「え?」
「え」

祐巳さんが眼を輝かせ手をわきわきさせながら聞いてきた。
「な、なにを……」
「なんかさ、さっきの背中もすごく触り心地よかったし。眼の前でホック外れるのをみたら、
 胸も気持ちよさそうかなぁと……」
「そ、そんな……!」
「大丈夫だよ、女同士だし。ただどんな感触がするか興味あるだけだし。」
「で、でも……」
「自分のだとよくわかんないくらいだしさー、お願いだから、ね?」
祐巳さんは自分の胸をぺたぺたと何度かおさえ、うーんやっぱこれじゃあなあ、
なんていいながら上目遣いに乞ってくる。
「一生のお願いだから!」

「……じゃ、じゃあちょっとだけなら……」
「やったあ!」
喜ぶ彼女を見れるのは嬉しかったけれど。
この決断は大きな間違いだったかもしれない……。

祐巳さんはうきうきした仕草で私のタイをほどきはじめる。まるで機嫌のいいときの黄薔薇さま。

……「ほどきはじめる」……って?
「ゆ、祐巳さん、なんでタイを」
「え、だって、手入れにくいし」
「!? さ、さわるって、制服の上からじゃなくて!?生で!?」
由乃さんも驚いて叫ぶ。

「やだなぁー、じかにじゃないとわかんないじゃない。さわり心地とか。ダメ?」
「だ、ダメっていうかなんていうか!」

でも、確かに。
さっきまで素肌の背中を触られていたのに、胸となると嫌がるのもおかしいような……?
いやいやいやいや、おかしくない。いくら同姓だからって……!

「……きゃ!」
「お邪魔しまーす」
そこまで考えたところで、祐巳さんは既に手を襟から侵入させて胸を触っていた。

「おお……」
「……んッ……祐巳さん、まだ手つめたい……」
「うわぁ。やわらか……」
「あ、あんまり指、うごかさな……ひゃん」

ふに、ふに、とリズムをつけて指を動かされる。
「う……ぁ……」
よくわからない感覚が走り、鳥肌が立った。

「志摩子さん、これサイズいくつ?」
「そ、そんなこと……」
「うーむ。他の部分が細いからかな。すっごい触りやすいっていうか……
 手にフィットするような……」

彼女にしては珍しく小難しい表情で解説する祐巳さん。
しかしやっていることを考えるとシュールすぎて笑いすら漏れてくる。
「あはは、祐巳さん、面白いけど恥ずかしいから、あ、あんまり言わないで……ん」

「……ゆ、祐巳さんだけずるいよ!わた、わたしも……!」
ようやく祐巳さんの手の感触に慣れようとしたとき、今度は由乃さんが叫ぶ。
「え、え?わ、ひゃあッ!」

由乃さんの手はあまり冷たくなかったが、それでもやっぱり急に入ってくると驚く。
「ちょっと、由乃さん……!」
「ごめん志摩子さん。なんか見てると我慢できなくって。やっぱ私もこれだし」
といって、さっきの祐巳さんと同じようにぺたぺたと自分の胸をはたく。
「それに祐巳さんだけずるいし……。祐巳さんはよくて私はダメってことはないでしょ?」
「そ、そうだけど……んっ、あぅ」
挨拶ばかりにキュ、キュっと胸全体をつかまれる。
「じゃあオッケーってことで!」

左は祐巳さん。右は由乃さん。
こねくりまわしたり、戯れに先端をつまんだり、優しく撫でたり。
なんだか二人とも、そして私も、歯止めがきかなくなってきたような……。

「ふ、たりとも、あんまり調子のら……」
「なんだろう。これ、ほんと幸せな気分になってくるね。柔らかい……」
「由乃さん、交替してみる?こっちは心臓がとくとくしてるよ」
「……ふっ・……く、は、あ、はぁ……」
「はぁ……お姉さまのも触れたらなぁ……」
「わたしも令ちゃんの……」
「んんッ……」
「赤ちゃんの気分がわかるかも」
「あはは、随分おっきい赤ちゃんねぇ」

会話しながらも、まさぐる指を止めてくれない。
胸の奥が不思議に高揚するような、変な気持ちになってくる。
……ちょっとまずいかもしれない。
「そ、そろそろ終わりに……」
「うーん、まだまだぁー。まだ触り足りないよー」
「私も、もうちょっとだけ……」
「そんなこと言ったって、もうすぐお姉さま達も……」
言いかけた時だった。


ガチャ。キィ……。
「祐巳!?」
「あら、由乃ちゃん」
「志摩子……?」
扉の開く音と共にあらわれた、祥子さまと黄薔薇さまとお姉さま。
私の胸に手をつっこんだ姿勢のまま、二人は口をあんぐりとあけて固まったのであった……。


「はしたなくってよ祐巳!感触を調べたいですって?!なんでそれを言ってくれないの!?
 言ってくれたら私のでよければ存分に……どうして志摩子なの?!祐巳、あなたは私じゃ不満なの?  それは確かに私には至らないところがあるかもしれないけれど、少なくとも胸の大きさでは……  ともかく!今回のことはお姉さまとよく相談して処断を決めるからね。ほんとにもうなんで一言  伝えてくれないのかしら。私だって祐巳がそれを望むなら考えないことも……」

「いやね。私は別にいいのよ? そんなことはどうだって。触りたきゃ誰のでも触ったらいいじゃない。  ただ、このことを令が知ったらどう思うかしらねえ……。うふふ、楽しみだわ。百面相の令バージョン、  見れるかしら?あー、それにしても、由乃ちゃんも令に触らせてもらえばいいのに。  ていうかもうそういうことくらいしてると思ってたけどねえ。意外とまだまだなのね。ふーん。  私も諦めずにもう少し張り切ってやってみようかしら?」

「しーまこっ、あとで一緒に保健室でもいかない?外も燃えるけど、今の時期やっぱり寒いからね〜。  どうしてもっていうなら考えなくもないけど……。まあ脱ぐのは志摩子なわけだし?  ああそうそう、前から言おう言おうと思ってたんだけど、着物っていいよね。  和服っていいよね!というわけで、今度うちにお邪魔するから」

薔薇の館に三者三様の悲鳴が響き渡る……。
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