Ci-en

 

booth

両手繋いで

今年も秋が無かった。
もうずっと、いつからだか忘れたけれど、冬は唐突にやってくる。
そろそろコートやマフラーが必要かもしれない。

木枯らしがひゅるひゅると銀杏並木を吹き抜けていく。
身体の表面を撫でていく木枯らしはまるで青白くて、でも身体の芯にわだかまる塊のような火は赤くて、寒くて熱くて、私は風邪をひいたのかもしれないと思う。
乾いたかさかさの唇は何か言えば剥がれてしまいそうだった。

そろそろ銀杏の季節も終わる。
だからなんとなく寂しいような気持ちになって体調が悪いのか、といわれればそんな気もして少しおかしく思う。でも、自分の好きなものが去ってしまうのはやはり悲しくて寂しい。

昔からそういう風に自分と自分の関わることしか考えられない。
自分のことや、自分の置かれている環境や立場についてだけはいつも考えてしまう。私は自分やその周囲についていつも不安を抱いてるのかもしれない。
どうして不安を抱かなければならないのだろう? 不安を抱いてしまう原因には、やはり自分には人に当たり前にある誠実さが決定的に欠けていることがあるような気がした。取り繕ってばかりの私。

ああ、寒い。
けれど熱い。熱に倦んだ頭ではあまり明るいことを考えられそうになかった。
私はきっと風邪をひいている。
この熱病は神さまがお与えになった罰なのかもしれない。
こうして自分のことばかり考えて自分の感情に浸っているから。

でも、他人のことを考えよう、そう思って一番最初に浮かぶのは。
同級生の祐巳さん?由乃さん?

いいえ。
一番に浮かぶのは。
一番に浮かぶのは、私とよく似たあの人。
きっと私は他人のことなんて真に考えられないのだろう。
手首に巻いたロザリオを確かめるように握りしめる。

握り締めながら……あの人のことを思い浮かべ、切実に「会いたい」と思う。
薔薇の館で殆ど毎日のように顔を合わせているのだからそんなことを思うのはおかしいかもしれないけれど。今、ここで、この瞬間、会いたかった。風船のように徐々に膨らんでいく暗い粘性を持った感情をあの人に鎮めてほしかった。

俯いてそっと呟く。
「会いたい……」

「誰に?」

「お、お姉さま!?」
唐突に真横から聞こえた声に驚いて顔を向けると、そこにはいつものように悪戯っぽく笑うお姉さまがいた。

「はい、お姉さまですよー」
「ど、どうしてここに……」
「どうしてって、ここはリリアン女学園の敷地じゃない。しかもその中でも志摩子のお気に入りの場所で、イコール私のお気に入りの場所。顔を合わせないのも不思議じゃない?」
「そうですけど……驚きました」
「ぼうっとしてるからだよ。……それより志摩子。リリアンの掟は知ってる?」
「掟……?」

身につけていたマフラーをするするとほどきながら、目を閉じて妙にもったいぶりながらお姉さまは口を開く。
「スカートのプリーツは乱さないように。白いセーラーカラーはひるがえさないように……」

「その他諸々あって、今私が言いたいのは"誰かに呼びかけられたら振り向くときは身体ごと"、ね?」
「あ……申し訳ありません……」
「いえいえ。妹のしつけは姉の役目でございますから」
やっと向き直った私にお姉さまは冗談めかして返した。

「…………」
しばし、なんとなく向き合ってみつめあう。
二人の間をひゅるひゅると木枯らしが通り抜けた。お姉さまは少しだけ風が吹いてくる方向を目を細めながら見、私の顔を再度みつめると口早に言った。
「寒くない?」
「あ、その、いえ……大丈夫です」
何故か内心に反してそう答えてしまった私に、お姉さまは少し困った表情になる。

「……お姉さまとしては正直に答えていただけるとありがたいんだけどなぁ」
所在なげな手に、多少わざとらしいほどくるくると弄ばれるマフラー。
マフラーから視線をあげ、目が合うと照れ隠しのようにお姉さまは笑みを形作る。私も思わず微笑んでいた。

「本当は……寒い、です」
「うむ、素直でよろしい。ではこれを進ぜよう」
お姉さまは嬉々として私の首にマフラーを巻いた。
少しきつく。

長くて大きくて分厚いマフラー。男性用なのかもしれない。ぐるぐると首から口許まで、私はお姉さまのマフラーにすっかり包まれる。マフラーを巻くお姉さまの指が何度かおくれっ毛をくすぐって、私は思わず上がりそうになった声を我慢しなければいけなかった。

マフラーからはお姉さまのにおいがする。
私は、はあ、と故意に口で息を吐いてマフラーを暖かく湿らせた。
そうするとお姉さまのにおいを少しでも多く感じとれると思ったからだ。

「……暖かくなった?」
「はい」
マフラーの暖かさが寒さを和らげ、鼻に感じるお姉さまのにおいが身体の芯の熱さを拡散させてくれている気がした。
見上げた私の瞳の色を読み取ったのか、お姉さまは満足そうな表情で片手を伸ばし、私の頬を撫でる。
「良かった。寒そうだったから」
優しく頬を撫でる手と優しく細められた目。寒さのせいなのか、なんだかよくわからないけれどその目は少し潤んでいるように見える。もしかしたら私の目が潤んで視界が滲んだだけかもしれないけれど。
両手でマフラーをおさえ、しっかりと布地越しに息を吸い込む。

「お姉さま……お姉さまは、なんだか孫の手みたいですね」
「なに?そのたとえ」
「かゆいところに手が届くんです。……いつもいつも」
「ふーむ。実に志摩子らしい古式ゆかしい表現だね。ま、誉め言葉として受け取っておくよ」
皮肉めかして答えながらも、満更でもないといった様子でお姉さまは頬を撫でていた左手を今度はぺたり、ぺたり、と私の頬に柔らかく押し当てる。
それに応じるように私もタイミングを合わせて頬をその手に猫のように押し付けた。
ぺたり、ぺたりと触れたところから、じわり、じわりと暖かくなっていく。
大きくなりすぎていた芯の火も、ささやかに灯るような、しかし確かなものへ。

「志摩子の頬はすべすべだね」
「そ、そうですか?」
「うん、もっと触ってたい。……でも、これくらいでやめとく。私はちょっと寒くなってきたし」
「あ、ごめんなさい……」
離れていく手が名残惜しい。

「じゃあ、薔薇の館にでも行く?」
「……いえ、もう少し。もう少しだけでいいですから、ここに居ませんか?」
珍しくわがままを言った私に目を丸くしながら、逡巡するようにお姉さまはぽりぽりと頬を掻いた。

「……そっか。それじゃ、もう少しだけ、ここにいようか」
「……はい。すみません、わがままを言ってしまって」
「私は大丈夫だから。気にしないで」
「はい」
「うん、じゃあ少し歩こう」

人気のない銀杏並木の中を肩を寄せ合ってさらに奥へと進んでいく。あの桜がある方向だ。
部活動に励む生徒らの喧騒が遠くなる。
かさかさと揺れる落ち葉の音ばかりが大きくなり、周囲の音が消えていくことはどこか秘密めいた、現実離れした予感を抱かせる。
私がお姉さまの左手を握る力もお姉さまが私の右手を握り返す力も少しずつ強くなってきているような気がした。

お姉さまと二人で、この場所にいる。そのことは幸せだった。この瞬間を手放したくなかった。だからさっきあんなわがままを言ってしまったのかもしれない。でもそうしてわがままを言った自分がなんだか惨めに思えてきて、私は歩きながら俯いてしまう。そんな私の気持ちを察したのか、
「志摩子」
と、ゆっくりと立ち止まりながら呼びかけるお姉さま。
「大丈夫?やっぱり、その……寒いよね」
「いえ……私は大丈夫ですけど。マフラーをお返ししましょうか……?」
「ううん、違うんだ。それじゃあ私だけ暖かくなって、また志摩子が寒くなっちゃうよ。二人とも暖かくなる方法があるんだけど……試してみる?」
「……はい」

私が首肯するとお姉さまは正面に向き直り、繋いでいた左手をほどいて私の背に回して硬く抱き締めた。
とくん、とくんと心臓が高鳴っていく。
「こうすると、ね?」
「はい……」
私も右手を回してお姉さまを抱き返す。
左手も右手と同じように背に回そうとすると、しかしそっとお姉さまの右手がそれを抑えた。

「片手、だけ……」
「…………」

私の左手とお姉さまの右手は力なく垂れ下がる。
しかしそれぞれのもう一方の回された手には精一杯に力を篭めて。
爪を立てかねないほどに。
硬く、強く、きつく、しっかりと、抱き合う

抱き合った形でお姉さまは首を預け、マフラーに顔を埋めて鼻を小さくすする。
私もお姉さまの白い首筋に鼻先を押し当てた。
さらに大きいマフラーに包まれているような感覚。
しかし今度は最初にマフラーに包まれたときのような安堵はもたらされず、次第に苦しさが募っていった。

胸のまんなかが回された腕の力に比例するようにきゅうきゅうと締められて喉を空気がうまく通らない。
片手しか回されないアンバランスな力の配分も苦しさを訴える。しかしその苦しさは、タイトに触れている右半身よりも軽くしか触れていない左半身からもたらされた。

「おねえさま……。暖かいけれど、苦しいです……」
「うん、私も……」

お姉さまは力を緩め頭を離す。
私も習ってそうして、再びお姉さまの顔が視界に入ったが、その顔には装うような苦笑が張り付いていた。
「あんまりいい方法じゃなかったね。……ごめんね」
今にも崩れそうな苦く苦しい笑みを繕おうとしたはずのその言葉は、逆に新たな綻びを穿ってしまったかのように彫像の顔を歪な形に変える。
それでも私から見たその表情はかろうじてではあるが、依然として笑みの形でありつづけた。

私はどこかその笑みに苛立つ。
お姉さまはどうしてこんな笑みを保とうと努力するのだろう。
私の心の中のどこかにある邪で酷薄な思考が、その笑みの下にあるものを思い浮かべる。
——自分と似たものが隠されているに違いないと想像している。

「お姉さま、」

このとき私は何を思っていたのだろう?
小さな子供が砂場で一生懸命作った山を壊したくなるような、明白な邪気と単純な無邪気が等分に混ざり合ったような衝動が確かにあった。
お姉さまが作った砂の楼閣のような笑みを確かに打ち壊したいと思ってしまっていた。
砂で作ったものはいずれ風化してしまう。それならば、いっそ……。だなんて思ってしまう私は残酷な人間なのかもしれない。
同時に残酷なことを思ったぶんだけ、自分を残酷に扱って欲しいのかもしれない。

ともかく、残酷な私は
「お姉さま、私、唇が乾いて……」
という誘いともとれる言葉を発していた。或いは残酷な結果がもたらされることも望んで。

「志摩子……?」

判別できるかできないか微妙な程度で。
私は少しだけ唇を上向きに差し出す。
お姉さまの瞳に表れたありありとした動揺。その後の無の表情。垣間見た透明な感情。
崩れた苦笑の中から表れたそれらは、私の胸に甘やかな痺れをもたらす。強欲で残酷で軽薄な私が、自分の中だけでなく、他人の中にも最も発見したい感情がそこにあった。
——ああ、やはり、この人は、私と。

……しかしそれは一瞬で取り払われ、お姉さまはまた苦笑いで取り繕った。
「孫の手、だもんね。わかった。でも、今日だけね……」

左手で私の後頭部を抑え、お姉さまは私の唇に唇を近づける。
そのときが来る瞬間を切望して目を閉じた私の上唇に柔らかい感触。
数度ついばむように触れ合い、ちろりと一度だけ、湿った舌が這う感覚。
それが終わると柔らかい感触は一度離れ、今度は下唇にだけ同じ行為が繰り返される。

上唇。
下唇。
上唇。
下唇。

交互に。丁寧に。優しく繊細に。
しかし決して同時に二つがあわされることはなく。
上唇。

私が意を決して更に、今度は明白に、唇を上向きに差し出しても。
決して同時に二つがあわされることはなく。
下唇。

私が胸のなかで溢れる何かの衝動のために身体を押し付けてしまっても、膝をがくがくと震わせても、片方の唇から交互に取り入れられる甘さに涙を流しそうになっても、
決して同時に二つがあわされることはなく!
上唇。

その行為はかなりの時間を要されて尽くされたにも関わらず。
決して同時に二つがあわされることはなく……。
下唇。

上唇、下唇。
片方ずつだけ愛撫されて、その行為は終わりを告げた。

「ん……」
「……あ」

「もう、大丈夫かな」
「……は……い」
甘やかな痺れが沈殿して痛みへと変わり、お腹の少し上に積もっていく。

顔を離して目を開けると、そこにはやはり苦笑を纏ったお姉さまがいた。
「ちょっと遅くなったけど、薔薇の館に行こうか」
「……いえ、私はもう今日は……」
「そっか」
「申し訳、ありません」
「いや、……こちらこそ。あ、そのマフラー、風邪ひくといけないから今日は貸したげるね」
「そんな、」

要りませんとは言えなかった。
沈殿した痛みを燃料にして再び勢いを増す身体の中の赤い火。反動なのか荒れ狂っていくようにすら感じる。
しかし表面の寒さだけはマフラーで防がれてしまっているのだった。
そしてこのマフラーはお姉さまのもの。私はそれを要らないと言うことは決してできない。お姉さまのものならどのようなものでもたとえ少しの間だけでも欲しいと思ってしまう。手放したくない。マフラーを両手できゅっと握り締める。

じゃあ、と言ってお姉さまは私を置いて背を向けて歩き出す。
表面の寒さは確かに防がれていて暖かい。
しかしそれが内面の火勢を強めていることに、遠ざかっていこうとする背中を見ながら初めて気付いた。さっきまで感じていた表面の寒さは寒さでありながら、しかし寒さとして火勢を抑えていたのだ。今の私の内なる火は、ここでお姉さまに会う前よりも確かに遥かに勢いを増していた。

たまらず私は声を張り上げる。
「お姉さま!」
お姉さまはぴくりと肩を震わせて立ち止まった。

「お姉さまッ」
駆け寄って、後ろから抱き締めた。
硬く、強く、きつく、しっかりと。
今度は両手で。

「志摩子……」
当惑に上ずった声で私の名前を呼びながら、首だけ中途半端にこちらに向けるお姉さま。
しかし今の私はその中途半端さを看過することができない。

「お姉さま、振り向くときは……」
言葉が終わらないうちに私の意を察したのかお姉さまは身体もこちらへ向けた。
さらに両手に力をこめ、ぴたりと合わさるように抱き締める。
硬く、強く、きつく、しっかりと。

「ちょっと、志摩子、痛いよ……。離し……ッ!?」
紡がれる言葉を断つように私は唇をお姉さまの唇に押し付けた。

「ん……」
「ぅんッ……!」
問答無用で上唇も下唇もピタリと合わせる。
お姉さまは動こうとはしなかったけれど、それでも私は、動けないように頭を右手で抑え左手で肩を掻き抱きいていた。

どれくらいの間そうしていただろうか。
私は私の中でいよいよ燃え盛る赤い火の欲求に従うまま、舌を少しだけ差し出した。
舌が唇にふれ、その中に割って入り、歯茎をくすぐってもお姉さまは僅かに身体を震わせただけでされるがままに行為を受け容れていた。
明白な拒否がないことに調子付いた私はお姉さまを拘束する手を一時緩め、マフラーを解く。
そして二人の首を繋いで包むようにぐるぐると巻きつけていった。

巻きつけ終わると再度、自分より少し大柄なその身体を強く両手で抱き締める。
「……離しません」
「志摩子、ダメだよ……」
そう言いながらも、お姉さまは柔らかく弱くではあるが、私の身体を抱いてくれた。
両手で。

「今日だけ、今日だけ……だよ」
自分に言い聞かせるようにお姉さまは呟き、透明な表情で色のない視線をこちらに向ける。
「…………」
私は答えずに目を閉じ、唇を再びただ差し出した。

三度目になる口付け。両唇に同時に伝わる感触。
今度はお姉さまのほうが舌を侵入させてきた。
「んっく……」
再びあの甘やかな痺れが胸を満たしていく。
ざわざわとしたおぞましいまでの高揚感はまるで無数の小さな虫が血管を這いまわるように全身に広がっていく。

私のほうからも舌を絡めた。
銀杏並木のかさかさと枯葉が鳴る音よりはるかに大きな水音が私の耳に響く。
とにかく手放したくなかった。
絶対に手放したくなかった。
無数の小さな虫たちが私のその強い思いを食むように、またそれによってさらに強い思いを生み出すように、繋がっている人物ともっと触れ合うことを望む。無数の羽虫が集うと空は黒く染まる。私のただ一つの火が燃えているだけの空虚な内面はそれによって黒く染まり、その黒がどんどん燃える赤の中に飛び込んでいく。火はますます勢いを強め、同時にその赤い光は私がいつも隅に追いやって見ないようにしていたさまざまなものを照らし出すのだった。
偽りの空虚・透明。その中に隠されたもの。独占し、独占されたいという欲望。
私はそれを見、また見てほしくて、口付けに熱をこもらせた。

「ん……はっ」
長く続いた口付けの末、音をあげてさきに唇を離したのはお姉さまのほうだった。
「ッ……志摩……」
「お姉さま、もっと」
「んく……」

四度目。
もう唇だけではなく全身を押し当てた。
舌を絡め絡められるのに合わせて腰がゆるゆるとうねってしまうのを感じる。
でも私はそれを抑えようとは全く思わなかった。
押し付けて、押し付けて、押し付ける。

最初は柔らかかったお姉さまの抱擁は、私に応えるように次第に力を増していた。
「ぁうッ……」
一度、ぎゅっと勢いをつけるように痛いほど抱き締めたかと思うとその両手は離れ、胸と下腹にそれぞれ移動する。
「ひあっ!」
最初の頃の抱擁な遠慮がちな優しさとは対照的に、思いのほかに強い力が私の胸を捏ねた。
「うっ、く、あ、あ……」
思わず耐えるように首を引いた私だったが、お姉さまはそれを追いかけて唇を離さない。

「ぅあ、あ、ん……む」
ぐるぐると荒い円を描くように刺激される右胸。人差し指と中指の間に挟まれた先端も服の上からではあるが強く摘まれていた。

「志摩子が悪いんだからね……」

一旦唇を離してそう宣言するお姉さま。
その瞳にはきっと私の内面のそれと同じ性質を持っているのであろう火が燃え盛っている。
「はい、私が悪いんです……」
私は殆ど感激・感動ともいえる歓喜でその宣言を受け容れた。
「…………」
私の発言を受けてお姉さまの瞳の火はそこに映っている私を焼きつくすように燃えさかり、いまや炎とさえいえるものへと変容していこうとしている。

「続ける」
返答を要さない言葉を放ち、お姉さまは再び私に口付けた。
「ああ、ん、んむ……ッ、はぁっ!」
さらに荒々しく弄ばれる胸とその先端。
そして今度はさっきまで下腹や太股を撫でているだけだった手がついにその奥に達する。
「く……ぁ!」
手が制服をまくりあげ、下着を少しずりさげ、何本かのそろえられた指が私のそこを荒々しくかき混ぜた。
羞恥を誘う水温が口と下腹と、両方から聞こえてくる。
私の形がわからなくなるほどの乱暴さと怒りを持ちながら指は強く押し付けられ、そのなかでも 一番太くて長い指が中への侵入を試みた。

「ふあッ……い、た……」
初めての行為に身体が戸惑い、侵入を拒む。しかし指は執拗に乱暴に中に入ろうとする。私の精神も指に
賛同するように、自らの意志と合致しない身体をもどかしく感じていた。
少しでも受け容れやすくするために脚を広げ腰をくねらせる。
「……志摩子はインランだね」
そんな私の行為に嗜虐の炎をともらせた目を皮肉げに、しかしどこか満足げに細めるお姉さま。
指にさらに力がこもる。


「ん……、やっ、ああ、あああ!」
そして指がついに私に割って入ってきたとき、内面の火が全てを焼き尽くすように激しく燃え上がった。
「はあ、ああ、ああ、ああッ!」
あくまで乱暴に、酷く、酷く、指は動かされる。しかしその酷薄な動きに確かに階段をのぼらされている自分がいた。
「あああッ……!」
腰を指に押し付けるように突き出し膝を震わせながら、私は果てた。


自身の体重を支えきれずにかくんと膝をつくと、首が繋がれているお姉さまも合わせて腰をおろす。
「はぁ、はぁ、はぁ、は……」
荒い息を整える私の頭と頬を優しく両手で撫でながらお姉さまは再び宣言した。

「志摩子が悪いんだからね」

「は……い」
「このマフラーはあげる」
「はい……」
「今日だけ、っていう言葉は忘れて。明日から絶対、そのマフラーをしてきてね」
「…………」
「明日から……暖かくなるまで。春が来るまで。絶対、ずっと、そのマフラーをして学校に来るんだよ」
「……はい」
「じゃあ、息が整ったら一緒に帰ろうか」


帰り道は暗くてお互いの表情はよく見えなかった。
家に帰ってマフラーに顔を伏せるとお姉さまのにおいがした。
私はそれを強く首に巻きつけて鏡の前に立つ。
もはや所有の証となったそれは、酷くアンバランスに、しかし誂えたように私の姿に馴染んでいた。
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