Ci-en

 

booth

猫は×××で丸くなる

「令ちゃあああああぁぁぁぁあああんッ!」
「な、なに」
「疲れた……」
由乃はおもいきり叫んだ後に薄く開けた口からふしゅうと溜息をもらし、こたつの上にこちんと頭を傾けた。

時計の針は12時を回ろうとしている。
支倉・島津両家恒例のテスト前のお勉強会。週明けから始まる試験期間に向けて本日土曜日は佳境で正念場だった。

「あぁーもうテストとかやだやだやだやだやーだよーおー」
由乃は額を卓にぐりぐりおしつけまま駄々をこねる子供のように体を揺らす。
「ねえ令ちゃん休憩にしない?甘いもの食べたい」
「……さっきしたばっかじゃないの。それに太るよ」
令は参考書を繰りながら半ば呆れ顔で答えた。

「ううぅ……。令ちゃんのケチ……」
由乃は体を傾けてころんと寝転がり、いいもんいいもんとか呟きながら体をこたつの中に埋めていく。
「そんな姿勢だと寝ちゃうよ」
「だって令ちゃんがケチなんだもん……」
理不尽な言い訳をしながらぷくっと若干頬を膨らませてこちらを恨めしそうに上目遣いに見上げてくる。
「そ、そんな顔したってダメだからね。それにそこそこの成績とっとかないと黄薔薇さまにまた嫌味とか言われちゃうよ」
「……それはヤダ」
上目遣いが可愛くてつい動揺してしまったのをひた隠して黄薔薇さまを引き合いにだすと、しぶしぶ由乃は体を起こしてくれた。
「はぁー。江利子さまには負けたくないし頑張るか……」
「うん、がんばれがんばれ」
「なんかその言い方ムカツク」
むくれながらも体を起こして勉強を再開した由乃の様子にほっと一息ついて、令も自分のノートにペンを走らせた。


——15分後。

「令ちゃあああああああぁぁぁぁあああぁあぁぁんんんッッ!!」
「こ、こら近所迷惑だってば」
「拙者はもうダメです……」
由乃はおもいきり叫んだ後にばたんと後ろに大の字に倒れ、そのままこたつ布団のなかにずるずると入っていき、首から下をすっぽりと埋めた。頭だけがにゅっと突き出しているその様子はさながらこたつと一体化した新種の何かだ。

「由乃ー、ダメだよ、寝ちゃうよ。ちゃんとやらないと。お姉さまにからかわれたくないんでしょ?」
「もういい……。人生に疲れた。学校教育の歪みの生き証人になって切腹する」
「そんな大仰な。ていうか切腹したら生き証人にはなれないと思うよ……」
「令ちゃんのばか、あげあしとり。だいたいこの部屋微妙に寒いのよ!寒いのがいけないの!微妙に!」
「暖かすぎると頭がボーッとするからこたつだけでいいって言ったの、由乃でしょ?」
「……そんなの知らなーい」

口論だかなんだかの末、拗ねてしまったのか由乃は頭のてっぺんまで完全にこたつの中に入っていってしまった。令はため息をつきながらまあそのうち暑くなってでてくるだろうと取りあえず放っておく。切羽詰ってくると由乃がこうやって駄々をこねるのは毎度のことだ。あとで即席でフルーチェでも作ってあげたら機嫌なおるかな、なんて思いながら解きかけの数学の問題に頭を切り替える。

しばらくはカリカリとペンを動かす音だけが響いていたが、こたつが急にガタガタと揺れてノートに書いている数字が乱れでたらめな放物線を描いた。
「もう……。由乃ー、何してるのー?いい加減にでてきなよ」

呼びかけると、こたつ布団がもぞもぞと動く。
「呼ばれて飛びでて……」
「うっわっ」
「じゃじゃじゃじゃーん」
由乃は令が入っているこたつのサイドと同じところに無理矢理体を入れて、ほとんどその体に乗っかりながら顔を出した。ちょうど令の胸のあたりに由乃の顔が収まる形になる。

「ちょ、ちょっと由乃、……狭いよ」
色んな言葉が脳裏をかけめぐったけれど、とりあえず狭いという言葉でごまかす。
「こうしたらあったかいかなーと思って」
「狭すぎるってば」
「あったかければそれでよし!ささ、勉強再開しよう」
「こ、この状態で?」
「うん。できるでしょ?」
由乃は当たり前だという風に頷いて、令の胸に頭をあずけながら自分の単語帳を開いた。
髪をおろしている由乃のつむじが間近に見えて、甘いシャンプーと石鹸の香りが伝わってくる。蛍光灯に照らされてきらきらと光る天使の輪。少し視線をあげると首筋とセーターの襟からのぞく白くて細い鎖骨。
……音を立てないように細心の注意を払って生唾を飲み込んだ。

その姿勢のまま、由乃は本当に単語帳をぺらぺらとめくって勉強を始める。
色んなことが頭に浮かんでは消えて、令はとてもそれどころじゃないというのに。

「……令ちゃん」
「な、なに?」
見上げてくるつぶらな瞳に頭が少しくらくらする。
「胸おっきくなった?」
「へ!?あ、いや……大してかわんないよ」
「ふーん……」
由乃は猫のように頭を少し胸にこすりつけ、はぁ、と意味深なため息をつく。セーターを通してもそこだけが少しあたたかくなったのがわかった。
それで改めて体が密着していることを自覚して、頬が熱くなってくる。高まる緊張感に身じろぎするとお互いの体が揺れて各所の柔らかくあたたかい接触を意識した。

「ん?令ちゃんの胸、ドキドキしてない?」
「し、してないよ……」
「嘘ついたってダメ。聞こえるもん」
由乃は耳を胸におしつけ、ほらやっぱりドキドキしてるとにんまり笑いながら呟いた。

「勉強してるだけなのにー。令ちゃんたらおっかしいんだ」
そう言って位置を変えて令と向き合う……というか抱き合う形になった由乃は体を徐々にずりあがらせる。
「なぁんでこんなにドキドキしてるのー?」
殊更に執拗に四肢を密着させこすりつけながら。
「…………」
絡みつく脚。差し込まれる太股。押し付けられる腰。
「ねえ令ちゃん、どうして……?」
令の息は少しずつ荒くなっていき、体を背の後ろで支えていた腕の力がかくっと抜けた。完全に上になった由乃は右肘を顔の横につき、左手は投げ出された令の右手と絡める。

「よ、由乃、ダメだよ……」
絡まった手のじっとりと汗ばみ始めている感触。
「ふーん。こんなに胸ドキドキさせてるのにそんなこというんだ」
「…………」
「令ちゃんはいつも口では嘘ばっかり言うんだから」
「う、嘘なんて」
「じゃあ目合わせてみなさいよー」
由乃はぐりぐりと額を押し付けてくる。睫毛同士が触れそうなほど近くて、少し鼻にかかった熱い吐息を意識せざるを得ない。そしてそういうことを意識すればするほど、由乃と目を合わせることができなくなっていく。
「う……」
「ほら、やっぱり嘘だ」

そのセリフを最後に由乃は令の唇に自分のそれを重ねた。
「ん……」
軽く触れ合うだけのキスを何度か繰り返し、ちろちろと舌で唇を舐める。それが終わると顔を離して目をまっすぐに見つめる。今度は令のほうもやや上目遣いに見返す。
お互いの濡れた瞳だけでお互いの視界を埋めて数秒。

「……舌、いれてよ……」
てらてらと唾液に光る唇から発せられた甘い囁き声につられるまま、令は由乃の頭を左手で拘束して勢いよく口付けた。
「んんっ……んくっ……」
「はっ……んむ、ぷぁ……」
最初はしめやかだった水音がだんだんとはしたなく部屋に響くほどの音量になってくる。
それに比例して上になった由乃の力が抜けていき、下になった彼女のお姉さまに身を預ける形になる。

「んぷっ……はっ、あ、はぁ……」
激しいキスの合間に唇を重ねながらも横にずらして懸命に息を吸うと、その拍子に令の口の端から唾液が垂れた。
「あ……」
とろんとした眼でそれを見た由乃は一旦息を継ぎながら顔を上げその軌跡を掬い上げるように舌でなぞる。
「口離しちゃダメだよ……」
「だって、垂れて」
「そんなのいいから」
令は半ば強引に再び唇を重ねた。
「んん、ん……む……」

眼を閉じて眉根をキュッと寄せた従妹の顔を観察しながら、令はぐるりと二人で寝返りをうつように体を回転させる。こたつの足が腰におしあげられて一瞬浮いてがたんと音を立てた。下になった由乃はこたつの狭さと令の口戯から逃れるようと背でずるずるとあとずさる。
「令ちゃん、ちょっとゴーイン……」
「ん……由乃が悪いんだからね……」
令は少し半身を起こすと肩を抑え、自分の胸の先端からゆっくり押しつぶすように由乃の胸に重ねた。腰に太股を押し付けながら上半身をゆらゆらと揺らす。
「ぁ……はぁ……あっ、ぅ……ダ、メ……」
頭を下げて、丸く開いた襟から見える鎖骨に舌をはわせると押し殺した嬌声が漏れた。

「脱がすよ……」
小さいけれど、どこか激しさを押し込めた声。
「うん……」
こくりと頷く。シャツとセーターが一緒に下から捲り上げられて、細いお腹、みぞおち、下着をつけた胸という順に露出していく。
「いつ見てもかわいいおへそだね」
令は耳のそばで囁きながらそっと手でおなかをなぞる。
「ひゃ、指、冷たいよ……」
「ごめん」
謝りながらも一向に指が止められる気配はなく、セーターも首元までまくりあげられていく。その様子を由乃は息を震わせながら潤んだ目でじっと見つめているしかなかった。

令はセーターをまくりあげるのを首元でとめ、ブラジャーを下にずりさげた。先端が既に主張している小さな胸が露になる。
「ちゃんと、脱がしてよ……」
「やだ」
短く言って、薄く笑いながらそこに口付けた。
「ひゃん!……あ、あ……」
最初に一度だけ舌で軽く先端に触れ、後はその刺激を残したまま焦らして周りに舌をはわせる。あまりに白いそこが水分を受けて光を照り返すさまはとても淫らだった。
由乃の腕はいつしか令の後頭部と首筋を覆うように抱き締めている。ときどきぴくんと体を震わせ、そのたびに必死にすがりついて回された腕に力が篭められた。

「令ちゃん……」
「なに?」
「まわりばっかりじゃ、あぁ……なくて、ハァ、……さ、先っぽもして……」
返事はしなかったが令は無言で先端を唇に含む。
「んぅ……!」
左を唇で、右を手で愛撫。
「あぅ……ああ、はぁ、口のあったかいのと、指の冷たいのが……」
「きもちいい?」
「うん、うん、いいよ……」

少し強くかんだり、はたまた弱く舌でねぶってみたり。胸の愛撫を繰り返すうちに由乃のあごは逸らされていき、目尻は涙で額は汗で濡れていく。
「あ、ダメ、令……ちゃ、ん……!」
脇腹がそっと撫でられると同時に一瞬キュ、キュッと高まった胸への指と唇の圧力。少し意識が真っ白に押し流された。
「あぁ!あ……ハァ、ハァ、ハァ……んっ……ふはっ」

「……軽くイッちゃった?」
「……うん」

「由乃は胸が敏感だね。小さいからかな」
揶揄するように言って令は手のひらでくりくりと先端を押しつぶすような動きをする。
「やっ、ダメ……また……」
「硬くなってるの、戻らないね。まだいける……よね?」
額にはりついた髪の毛を丁寧に整えながら聞いてくる令。由乃はちらりと視線を合わせて一瞬迷うそぶりを見せたが、結局首肯していた。

ぴちゃ、ぞぞぞ、という音が突然鼓膜に響く。
「きゃ!い、いきなり耳は……」
舌の不意打ちに動揺している間に部屋着のスウェットのズボンが降ろされて太股が外気に触れる。汗をかいて熱く湿ったそこを冷たい夜気が撫ぜた。

夜気に続いて令の指もそこを撫ぜ、さらさらとした太股の感触をあじわうために何度もゆっくりと手が円を描いて回される。
十分あじわったあとにやがて指はその根元に。
水分を含んだ音。

「すごい、濡れてる……」
「……い、いわないでよお……」
由乃は顔を両手で覆っていやいやをするように身をよじった。
「ごめんね……」
言いながらも令は左手でまた胸を少し愛撫し、耳に舌を這わせる。右手は脚の付け根から離さず下着のうえからそこの形をなぞってゆるゆると動かしながら。
「ぅあっ、ひっ……ああぁ、イヤ、ハァ……」
少し硬かった由乃の体から力が抜けて弛緩してくる。それに合わせて令は下着に指をかけて膝のあたりまで降ろした。

「いくよ……」
由乃に問う形でありながら自分に確認するためにも令は呟いて、じかにそこに指で触った。
淫靡な湿った音が二人の鼓膜を震わせ、快感に変えて脳に伝わる。
「きゃう!んあっ……!」
官能に敏感に感応して反応してくる細くて白い体。奏でられる少しかすれた高い声。
「由乃、もうちょっと声おさえて……」
「そんな、こと、ひあっ……いったって……うぅ、んっ、く!」

混ざり合うお互いの熱い吐息と絡み合う濡れた視線が口付けを誘い、どちらともなく再度激しく唇を合わせる。舌で口のなかをねぶったり唇で舌を吸ったりするたびに、秘所に触れた指には新たに溢れ出す熱い液体の感触があった。息をつく暇すら惜しんで、しかし響く音は惜しまずに、快楽を貪りまた与えようとする。

ひっきりなしに濡らされる指。熱い感触に自分と由乃の境界があやふやになるのを感じながら、いつものように少しだけ中指を挿れた。
「ああ……!」
ごく浅い、短い抽挿。手を動かすとときどきそのすこしうえにある一番敏感なところに触れて、不意打ちの快感を由乃にもたらし、それの所為で中指が締め付けられて令の興奮を煽る。
「ふあ、ああ、あう、んくっ、はぁ、ああ……!」
「由乃、由乃、かわいいよ……」
唇をやっと離して耳もとで囁いて、すぐ胸に顔を移動させる。

「だめ、だめ、令ちゃん……むねは、だめだよお……わたし……」
桜色に体を染めながらうわごとのように呟く由乃。全身に伝わる熱い感触に酔いながらも令は胸の先端を交互に唇で甘噛みし、指でてのひらのなかのもう一つの先端をぐっと押した。
「あああ、んんっ、ああ、令ちゃんッッ……!!」

身体を隠すように肩をすくめ、ひくひくとお腹を波打たせながら由乃は果てた。
令の中指を懸命にしめつけていた感触が徐々に緩くなっていく……。
「はぁ、はぁ、はぁ、……」
絶頂に息が止まっていたのだろう。10秒くらいしてからようやく由乃の荒い吐息が聞こえた。それが収まるまで令は優しく労わるように由乃の身体を抱き締めていた……。



「ぁぶっ」
翌朝。
寝相のわるい由乃の頭突きをもろにあごに食らって、令は目覚めた。
あれから結局お互い2回ずつ達するくらいの長期戦に突入してしまったのだ。最後に時計を見た記憶では、朝の4時。今は7時少し前を指している。

令の上には猫のように丸くなった由乃が四肢を重ねて乗せている。
「由乃ー、起きないとまずいよー」
あごをさすりながらどうしようかと考えつつ、とりあえず小さな声で目覚めを促す。
しかし従妹はそんなことくらいで起きる気配は全くなかった。

仕方ないのでとりあえず風邪をひくことはないように、由乃を抱きかかえたまま慎重にこたつの中に移動する。こたつ布団を静かにかけてやっと一息。……つこうとしたが重い物体がのってるせいで詰まったようなため息になってしまった。

「令ちゃん……」
「うん?」
「……」
寝言なのか、一言だけ呟くと由乃はまた黙って寝息を立て始める。
しょうがないなぁと苦笑しながら、目覚めてくれるまでこの態勢でいることにした。
さらさらの髪の毛を少し撫でると、むずがゆいのかすこし身じろぎする由乃。

いとおしそうに目を細めた令だったが、
「ぁぶっ」
絶妙のタイミングでまたあごに頭突きが命中。

「ひたはんだ……(舌かんだ)」
頭を撫でるのは危険らしい。

手のかかる妹だと改めて思った。
でもそこがまた可愛いんだ。
柔らかい笑みを浮かべながら、今度は小さい子をあやすように背中を撫でつづけた。
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