愛ある仕返し
ルサンチマン的人間はある価値が入手困難であると認めると通常は変わることのない価値観を変容させ価値盲や価値欺瞞によって物事の価値レベルを自分のレベルまで落としそれによって価値のヒエラルキーを再構成するのであるがこれは単なる諦めによる価値の消失とは違い欺瞞によって自分には適わぬ価値を追い求め続け本当の価値を感じつつも偽の価値をかぶせその輝きを鈍らせ……
……飽きた。
違うことを考えながら書類に目を通せば何時の間にか終わってた、なんてことになるかと思ったけど全然そんなことはなかった。むしろペースが落ちていたようで残っている書類の山にうんざりする。まあ当たり前なんだけど。あー、こんな書類にこんな作業、なんてつまらない。
「つまらないわ」
あんまりつまらないから声に出して言ってみた。
「…………」
沈黙しか帰ってこなかった。
「ねえ蓉子、退屈なんだけど」
反応がないので絡んでみた。
「そうね」
そっけなくされた。
「たーいーくーつー」
軽く叫んでみた。
「…………」
反応したら私が付け上がることを知っているのか、蓉子はだんまりを決め込んで書類にひたすら判を押す作業を続けている。
「ねえ、部屋に二人しかないんだから黙り込まないでよ」
「…………」
また無視。しかし、無視というのも一種の反応ではある。軽く相手されて気がついたら結局流されているよりはマシだ。まあそれは私が由乃ちゃんによくやることだけど。
「ひょっとして機嫌悪かったりするの?珍しい」
「……悪くもなるわよ。あとどれだけやらなきゃいけないことがあると思ってるのよ」
机の上に積んであるくだらない紙の束を見る。
「それはもう、たくさん」
「わかってるなら片付けてよ……」
はぁぁぁ、と深い溜息をついて蓉子は机につっぷした。
しかし3秒後にまたガバッと勢いよく体を起こすと猛然と作業の続きを始める。
「偉いわね」
「はやく祥子達が来てくれないかしら……」
愚痴りながらも手の動きは止めない。本当にえらいなぁとは思う。こんなの一人で頑張るよりみんなで手分けしてばーっとやっちゃうほうが良いのに。少しでも後輩達に楽をさせようという配慮だろうか。全くよくできたお姉さまだ。
しかしそんなに一生懸命やられると逆にからかいたくなるというか。
立ちあがって蓉子の背後に立つ。見降ろすと、黒い綺麗な髪の毛に天使の輪。
「……何よ」
不信げな声を無視して天使の輪を指でなぞった。さらさらと指にそって流れる髪の毛。
「ちょっと、何してるの」
「天使の輪ー」
「……あーそう……。お願いだから邪魔しないでよ……」
またはぁぁぁと深い溜息をつき、脱力して机につっぷする蓉子。
白いうなじが覗いた。
妙に艶かしいそこになんとなく指を這わせてみる。
「ひゃあ!」
びくっと体を震わせて蓉子は起き上がり、椅子越しに振り返ってこちらを睨む。
「何するのよ!」
「綺麗だなぁと思って」
「……バカなことしてないでやることをやって」
照れ隠しなのか、プイと机に向き直ってしまう。少し赤くなっている頬。
これは……面白いかもしれない。いつも正論でやり込められているのに仕返しするチャンスだ。
「つれないこと言わないでよおー」
背後から腕をまわし、だらんとよりかかった。
「……重い」
意識して、少し胸を押し付けるようにしてみる。
「失礼ね、花も恥じらう乙女に向かって」
「花も恥じらう乙女はこんなことしません」
密着してみてわかったがどうやらコロンをつけているらしい。シトラス系の爽やかな香りが嫌味なく鼻から入ってきて、甘いしびれになって脳に伝わる。
「いい香り……恋人でもいるの?」
「……いないわよ」
「じゃあ、片想いとか……?」
にべもなく答える反抗的な態度に少し腹が立って、耳のごく近くで囁くようにして聞いてみる。
「きゃっ、ち、違うわよッ……ていうか気持ちわるいから離れてッ」
蓉子の手が頬擦りできるほどに近づいていた私の顔を押しのける。
「あら、つれないわねえ」
逆らわずにそのまま体を離した。
「江利子……、今日のあなた、なんか変よ」
怒りもあるだろうが、さっきよりまた少し赤くなった頬と微妙に潤んだ眼。そんな色っぽい顔で怒られても説得力ゼロですよ。
「あら、変なのはそっちじゃなくって?これくらい祐巳ちゃんならいっつもやられてるじゃない。うろたえすぎなんじゃない?紅薔薇さま」
揶揄するように言うと蓉子はくっと唇をかみ、もういいわでも邪魔はしないでと呟いて書類に目を戻した。平静を装っているが、紙をめくる手は微妙に震えているし仕事をこなす速度も明らかに落ちている。
……いい感じだ。
どうして今まで蓉子をやりこめるのに"こっち方面"に気が回らなかったのだろう。中学生時代は兄の部屋をあさって想像をたくましくしていた江利子ちゃんにとってこれくらいならお手のものですよ?まあ自慢することじゃないけど。内緒だけど。
さて次はどうしてやろうかと思案していると、階段を登って来る二つの足音。
「誰かしら。せっかく二人きりで蓉子と楽しめるチャンスだったのに」
「妙なこと言わないで……」
「まあ、また後でね。こんな面白いこと久々だわ」
「……本気……?」
一転、青ざめて自らを抱き締めるようにする蓉子にふふふと微笑んであげた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよー」
聖と令。珍しい取り合わせだ。
「なんだ、祐巳ちゃんまだなのか。つまんなーい」
どっかと椅子に乱暴に腰を降ろし、ギコギコとやり始める聖。まことにお行儀が悪い。
しかしそんないつもどおりの聖の様子で蓉子は調子を取り戻したのか、てきぱきと聖にも仕事を分担させる。
「えー、こんなにあるのー?やりたくなーい……」
「しょうがないでしょ。仕事なんだから」
「祐巳ちゃんとお茶でもしてたいよ」
さっきの蓉子のように机に突っ伏する聖。
このいつもにも増してやる気のない様子……案外簡単に行きそうだ。でもまあまずはと思って顔をあげると、戸惑ったようにこちらを見ている令とちょうど目が合った。
「お姉さま、どうしたんですか?立ちっぱなしで」
「あら……ちょっと考え事よ」
同時にきた聖がとっくに腰かけているのに、私が立っていることに気を使ったのか令はまだ立っていた。どうやったらそんな器用なことができるのかしらないが、私より背が高い癖に上目遣いで機嫌をうかがうようにして椅子を勧めてくる。
令、最高に可愛いけど今日はちょっと取り込み中なのよ。
新たに階段を登ってくるひとつの足音を聞きながら、胸のなかで一人ごちて令に向き直る。
「ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン、タイが曲がっていてよ」
「え、お姉さま?」
するすると令のタイを解いてゆっくりと結びなおし始めるのと、ビスケット扉が開いて薔薇の館に新たな人物が入ってくるのは同時だった。
「ごきげん……え……黄薔薇さま、令ちゃん!?」
「あら、ごきげんよう由乃ちゃん」
「よ、由乃……」
「令ちゃん……何してるの」
「何って、ねえ?乱れたタイを結び直してあげるのも、お姉さまの役割よ」
パシ、キュと小気味いい音をたてて、黄薔薇さま結び完了。
「はい、出来上がり」
「あ、ありがとうございます、お姉さま」
由乃ちゃんがいるのに喜びを隠し切れずに結ばれたタイを見て頬なんか染めて礼を言うから。
「……令ちゃん、ちょっと来なさいッ!」
「え、由乃……ちょ、わ、制服のびる」
バタン!案の定だ。扉がしまる音を響かせて、令は来たばかりの由乃ちゃんにどこかに連れていかれてしまった。
よし、取りあえず二人掃除した。
あとは聖に祐巳ちゃん祥子に志摩子か……。まあこのへんは一気に片付くだろう。
視線を戻すと、相変わらず仕事をこなしている蓉子とだらだらと退屈そうにしている聖。
「うーん。そういえばなんかいい匂いがする」
聖が唐突に鼻をくんくんとやりながら言った。
「なんだろ、柑橘系かな?こういう匂い私好きなんだよね〜。どっかに芳香剤でも置いてるの?」
ピクッと蓉子が僅かに動きを止めて、ごく小さく微笑した。
……へえ。そういうこと。
「ふーん。聖ってそういう香りが好きだったんだ。私、知らなかったわ。ねえ蓉子?」
含み笑いをしながら意味ありげに蓉子の顔を覗きこんでやる。
「そ、そうね……知らなかったわ……」
今度はさっきと違ってビクッとして口元をひきつらせる。
「あれ、そうだっけ?蓉子にはなんか言ったような気もするんだけどなぁ」
聖の何気ない発言が更に追い込みをかける。
「らしいわよ?蓉子」
「そ、そうだったかしら……」
「まあ私の好きな匂いなんて蓉子にとってはどうでもいいことだよね」
「いや、そんなことないんだけど……」
しどろもどろになる蓉子の姿は見ていて新鮮だった。愉快愉快。
声をあげて笑い出しそうになるのを堪えながら窓の外を見ると、祐巳ちゃんと祥子が並んで、その数歩後ろに志摩子が連れ立って薔薇の館に近づいてくるのが見えた。
「聖、祐巳ちゃんと祥子が見えるわよ」
「え、ほんと?」
ガタッと音をあげて立ち上がり、横から窓を覗き込む。
「志摩子もいるね。じゃ、ちょっと行ってきまーす」
机に広げた書類をほっぽって、本当に楽しそうに駈けて扉から出て行こうとする。
「ちょっと聖!まだ仕事が」
「悪い、最近祐巳ちゃんの怪獣の赤ちゃん聞いてなかったから。あとは頼んだよ」
「たまには志摩子も一緒に相手したげなさいよー」
「ま、待ちなさッ……!」
私がダメ押しを言い終わるか終わらないかのうちに聖は出て行った。当然蓉子が呼び止める声なんぞ聞こえていないだろう。
窓に眼を戻すと、もう聖は祐巳ちゃんに抱きついている。なんて素早い。横でヒステリックに喚いている祥子の声がここまで聞こえて来そうだった。
「あはは、見てみなよ蓉子。祥子がいきいきしてるわよ」
「……」
むすっと不機嫌そうにしながらも窓際にやってきて下の様子を窺う蓉子。
聖はわたわたともがいて抵抗する祐巳ちゃんを右腕に抱えながら、志摩子を左腕でそっと抱き寄せ、ミルクホールと思われる方向に向かって歩きだした。何やら叫んでいる様子の祥子も当然同行する形になる。
「あらあら。幸せそうな姉妹の光景だこと」
人払いは済んだ。当分誰も薔薇の館には帰ってこないだろう。
「さて、マリア様のお導きでまたこうして二人きりになることができました」
「……何とぼけたこと言ってるのよ」
「何カリカリしてるのよ。せっかくの機会なのに」
「令と由乃ちゃんにイタズラしたときにオカシイとは思ったけど。まさか本気だったとは……」
今日何度目かになる大きく深い溜息をつきながら蓉子は頭を抱えて言った。
「あなたねえ、同性同士なんて……」
「狂ってるとかオカシイとかは言わせないわよ。片想いの紅薔薇さま?同じ穴のムジナじゃない」
「ッ……」
「逃げてもいいのよ?」
「逃げるもんですか。それに逃がすつもりなんてないくせに」
「ご名答ー。まあ、あとで仕事は一緒にやったげるからさ。たまには私にも年貢を納めてちょうだい」
「はぁ……。いいわよ。好きにしたら」
蓉子は椅子に足を投げ出すようにぞんざいに腰を降ろした。
「あらあらあらあら。ダメねえ。紅薔薇さまともあろうものがそんな態度じゃ。もっと燃えさせてくれないと」
「どうしろっていうのよ……」
「立って」
しぶしぶといった感じで立ち上がった蓉子の肩を掴み、口に切りそろえてある髪があたるほどに顔を近づけて聞いた。
「優しいのと激しいの、どっちが好み……?」
「そ、そりゃ優しいほうが……」
「ふーん。じゃあそうなるようにがんばる」
掴んだ肩をそのまま押していき、ダンッと音が出るほど勢いよく壁に押し当てる。
「きゃ、ちょ、ちょっと……激し……!」
抗議の声をあげようとする唇を唇で塞いだ。
「んんんっ……!」
柔らかい。他人のくちびるはこんなに柔らかいものだったのか。唇を押し付けて唇で食んで、舌の先でつついて、その柔らかさを確認する作業。心地よい弾力が私の唾液でぬめっていくのが、唇を唇で挟むとよくわかった。
「ふはっ、はぁ、やめ……んん!」
弱めの愛撫だったからか、まだ抵抗できるとふんだ蓉子が声をあげようと口をあける。しかし私はそれを好機とばかりに深く舌をさしこんだ。
つるつるの歯の裏と、生物で習った外胚葉と内胚葉の分かれ目である前歯と喉の間にある柔らかいところと硬いところの境を舌でなぞる。人間の体の境目はたいてい敏感にできている。ここも例外ではないだろう。
現にやわやわとそこばかりをなめているだけで、次第に蓉子の体の力が抜けて私を押し返そうとしていた腕が垂れ下がり、奥にひっこんでいた舌も弛緩するように前にでてきた。
「んっ……ふっ……」
顔を斜めにして深くあわせ、蓉子の舌を引き出した。
ぬめらせた唇で吸い取るような、しごくような動きをする。
「……はぁ、ぅ……ぷ……」
あふれたお互いの唾液が絡み合って顎を伝い、鎖骨に冷たい感覚をもたらす。
流れ落ちる唾液とあわせるように力の抜けていく蓉子の体はずるずると重力の方向に従い壁をこすり、スロー再生で床に崩れ落ちた。
完全に座り込んでしまった蓉子の肩に手を回し、一旦唇を離す。力が抜けているのかすぐ体重を預けてきた。
「ふあ……」
紅潮した頬と潤んだ目。半開きの唇の端から垂れている唾液。
背筋がぞくぞくした。誰か、普段の蓉子しか知らない人にこの表情を見せてあげたい。嗜虐心を共有してもいい。半ば本気でそう思った。
「どうしてそんなに巧いのよ……。こんな簡単に……力、抜けて……」
「……こんなつもりじゃなかった?好きでもない相手とキスしても感じることなんてないと思ってた?」
「そう思ってたんなら、思い知らせてあげる」
「ん……!」
うろたえるように視線を伏せた蓉子の両耳を手で塞ぎ、また唇を重ねた。
今までよりさらに激しく、殊更に水音を立てるキス。
耳をふさいでいるから口中の音が外に出る隙間はない。蓉子の頭のなかでは、お互いの淫らに粘性を持ってしまった唾液の絡み合う音だけが鳴り響いているだろう。
「ぷぁ……はぁ、はぁ、今の、何?何なの……?」
たっぷり数分間、自分の口の中の音しかない世界を味わせてから唇を離してやると、蓉子はうわ言のように呟く。口の端からおびただしい量の唾液が伝っててらてらと濡れ光っている首筋や鎖骨。
「あなたの音よ……」
汗で張り付いた前髪をかきあげてやる。
今ので完全に火がついたんだろう。その時に額に指が少し触れただけで、蓉子は熱い息をはいて小さく震えた。
垂れている唾液を舐め上げてふきとってやる。下から上に、胸元から。濡れて光っている部分に息がかかるたびに、蓉子は敏感に体を震わせる。舌が首筋に達すると、あのシトラスの香りがした。聖の好きな香り。
「ほんとにいい香りね……」
「い、今はそのこと、言わないでよ……」
「まあ。一途ですこと」
色々な皮肉をこめて言い、なめとる間に口にためた唾液を舌で歯の裏にもっていく。強く蓉子の両頬を抑えながら唇を重ねてそれを舌で押すように流し込んだ。
「んん……ッ!」
嚥下するまでそのまま唇を重ね続ける。蓉子は何度かこちらに押し返したり吐き出そうとしたりしていたが、やがて観念したかのように目を硬く閉じると喉を鳴らした。
「ふはっ、はぁ、はぁ、はぁ……」
飲み終わると異様な熱さと乱れを含んだ息が吐き出される。まるでマラソンの後のようだ。
「……おいし?」
「はぁ、はぁ、……わかん、ない……」
さっき目を硬く閉じたせいで、潤んでたまっていた涙が溢れて筋を作った。
「私は蓉子の、甘いと思うんだけどね……。じゃあ、気持ち悪いと思った?嫌な味がした?」
涙を親指ですくいあげ、それを蓉子の眼前で口にもっていって舐めた。
「……わかんない」
「じゃあ、わかるようになるまで味わって」
再び深く唇を重ね、口内を唾液をたっぷりと含ませた舌で蹂躙した。
ぺちゃぺちゃとはしたない水音が再び部屋に響いた。
私ってこんなに唾液が出る体質だったっけ?
でもなぜだかさっきから唾液がたまってたまって仕方がない。まるで餌をおあずけされている犬のようだ。まあ全部蓉子に流し込んでしまえるから好都合といえば好都合だけど。
もうさほど抵抗しなくなった蓉子の半身をもたれかかっている壁からずらし、床に横たえるようにしてさらにぴったりと唇を重ねる。流しこめば流しこむほど、こくこくとなる喉。私の分泌しているものが蓉子に入っていく。入る度ごとに支配欲が満たされるような充足感が頭に満ちる。
飽きるほど流し込んでからふと思いついて、顔を離した。
「口を大きくあけて」
「……?」
蓉子はとろんとした目でア、と口をあける。
そのうえから顔を離したまま、口を半開きにして唾液を垂れるのに任せて蓉子の口のなかに落とす。
私もそうとう興奮しているのだろう。長く糸を引くいつもより格段に粘った唾液。
自重にたえきれなくなると、ふつりと切れて蓉子の口のなかに落ちていく。パタパタと落ちる唾液をただ受け入れている蓉子のいつもの強さがない表情に背中一面に鳥肌が立つ。自分の唾液が蓉子の口の中に溜まっていく様子と、それが飲み込まれる様子がよく見えることにお腹の奥がうずいた。
「……おいし?」
再び聞いてみると、嘘か本当か、今度はゆっくりと頷いた。
「ま、まだするの……?」
「そうね。もう少し」
もっとしていたいが、度が過ぎると惨めになってしまうだろう。私も蓉子も。
でも、もう少し。
制服の上からブラのホックをはずして下にずりさげる。
「こすれる……」
蓉子の呟きを聞くまでもなく、制服の生地の下に硬くなっている突起を感じた。今更ではあるが自分の行為が快感をもたらしていることの証明に改めて安堵を覚えた。
そのまわりをまだまだ溢れ出る唾液で濡らしていく。舌で触れて唇で包んで、深い色の制服を水分で更に深い色に変えていく。
ほどなくして、水分を得た制服が胸の先端に張り付いてその形を露にした。
「ほら、見て。形がわかる」
「…………」
固定された視線と長い沈黙が雄弁に蓉子の心情を語っていた。
「んぁ……くっ」
浮き出た乳首を口に含みながらスカートのなかに手を入れる。殆ど抵抗なく、指はしとどに濡れた下着に達した。
「ふあぅ……!」
そのまま軽く触れて布越しに形をなぞっただけで蓉子は嬌声をあげる。さっきまで唇やら胸やら、さんざん愛撫していたせいだろう。このぶんだともうすこしで達しそうだった。
色んな意味でちょうどいい頃合かもしれない。
そう思って指をなぞる作業を早めた。
「んッ……あ、ぅあ、あ……」
ただひくついていただけの体が、次第にある周期を持って反応するようになってくる。同時にいつまでたっても触れられない一番敏感な個所をゆするようにもどかしげに脚を動かし、私の背に回した腕にギュっと力が篭められる。
「触れて欲しい……?」
瞳を潤ませたままこくんと頷くのを見ると同時に、指の腹でそこをリズムをつけて何度か強く押した。
「ぅ、く、ああああぁぁぁ……」
蓉子が目をぎゅっと瞑って絶頂の声をあげるのを見て、満足感からか私も軽く果てた……。
———————。
「ねえ」
「なに」
「こういうこと……よくするの?」
「さあ。どう思う?」
「……好きでもない人間にもこういうことってできるものなのかしら……」
「何言ってるの。できるわけないじゃない」
「え?」
「同性。片思い。つくづく同じ穴のムジナよねえ」
「そんな……」
「これで聖が私のこと好きだったら完璧ね。閉じた輪の完成」
「……本気か冗談かわからないんだけど」
……飽きた。
違うことを考えながら書類に目を通せば何時の間にか終わってた、なんてことになるかと思ったけど全然そんなことはなかった。むしろペースが落ちていたようで残っている書類の山にうんざりする。まあ当たり前なんだけど。あー、こんな書類にこんな作業、なんてつまらない。
「つまらないわ」
あんまりつまらないから声に出して言ってみた。
「…………」
沈黙しか帰ってこなかった。
「ねえ蓉子、退屈なんだけど」
反応がないので絡んでみた。
「そうね」
そっけなくされた。
「たーいーくーつー」
軽く叫んでみた。
「…………」
反応したら私が付け上がることを知っているのか、蓉子はだんまりを決め込んで書類にひたすら判を押す作業を続けている。
「ねえ、部屋に二人しかないんだから黙り込まないでよ」
「…………」
また無視。しかし、無視というのも一種の反応ではある。軽く相手されて気がついたら結局流されているよりはマシだ。まあそれは私が由乃ちゃんによくやることだけど。
「ひょっとして機嫌悪かったりするの?珍しい」
「……悪くもなるわよ。あとどれだけやらなきゃいけないことがあると思ってるのよ」
机の上に積んであるくだらない紙の束を見る。
「それはもう、たくさん」
「わかってるなら片付けてよ……」
はぁぁぁ、と深い溜息をついて蓉子は机につっぷした。
しかし3秒後にまたガバッと勢いよく体を起こすと猛然と作業の続きを始める。
「偉いわね」
「はやく祥子達が来てくれないかしら……」
愚痴りながらも手の動きは止めない。本当にえらいなぁとは思う。こんなの一人で頑張るよりみんなで手分けしてばーっとやっちゃうほうが良いのに。少しでも後輩達に楽をさせようという配慮だろうか。全くよくできたお姉さまだ。
しかしそんなに一生懸命やられると逆にからかいたくなるというか。
立ちあがって蓉子の背後に立つ。見降ろすと、黒い綺麗な髪の毛に天使の輪。
「……何よ」
不信げな声を無視して天使の輪を指でなぞった。さらさらと指にそって流れる髪の毛。
「ちょっと、何してるの」
「天使の輪ー」
「……あーそう……。お願いだから邪魔しないでよ……」
またはぁぁぁと深い溜息をつき、脱力して机につっぷする蓉子。
白いうなじが覗いた。
妙に艶かしいそこになんとなく指を這わせてみる。
「ひゃあ!」
びくっと体を震わせて蓉子は起き上がり、椅子越しに振り返ってこちらを睨む。
「何するのよ!」
「綺麗だなぁと思って」
「……バカなことしてないでやることをやって」
照れ隠しなのか、プイと机に向き直ってしまう。少し赤くなっている頬。
これは……面白いかもしれない。いつも正論でやり込められているのに仕返しするチャンスだ。
「つれないこと言わないでよおー」
背後から腕をまわし、だらんとよりかかった。
「……重い」
意識して、少し胸を押し付けるようにしてみる。
「失礼ね、花も恥じらう乙女に向かって」
「花も恥じらう乙女はこんなことしません」
密着してみてわかったがどうやらコロンをつけているらしい。シトラス系の爽やかな香りが嫌味なく鼻から入ってきて、甘いしびれになって脳に伝わる。
「いい香り……恋人でもいるの?」
「……いないわよ」
「じゃあ、片想いとか……?」
にべもなく答える反抗的な態度に少し腹が立って、耳のごく近くで囁くようにして聞いてみる。
「きゃっ、ち、違うわよッ……ていうか気持ちわるいから離れてッ」
蓉子の手が頬擦りできるほどに近づいていた私の顔を押しのける。
「あら、つれないわねえ」
逆らわずにそのまま体を離した。
「江利子……、今日のあなた、なんか変よ」
怒りもあるだろうが、さっきよりまた少し赤くなった頬と微妙に潤んだ眼。そんな色っぽい顔で怒られても説得力ゼロですよ。
「あら、変なのはそっちじゃなくって?これくらい祐巳ちゃんならいっつもやられてるじゃない。うろたえすぎなんじゃない?紅薔薇さま」
揶揄するように言うと蓉子はくっと唇をかみ、もういいわでも邪魔はしないでと呟いて書類に目を戻した。平静を装っているが、紙をめくる手は微妙に震えているし仕事をこなす速度も明らかに落ちている。
……いい感じだ。
どうして今まで蓉子をやりこめるのに"こっち方面"に気が回らなかったのだろう。中学生時代は兄の部屋をあさって想像をたくましくしていた江利子ちゃんにとってこれくらいならお手のものですよ?まあ自慢することじゃないけど。内緒だけど。
さて次はどうしてやろうかと思案していると、階段を登って来る二つの足音。
「誰かしら。せっかく二人きりで蓉子と楽しめるチャンスだったのに」
「妙なこと言わないで……」
「まあ、また後でね。こんな面白いこと久々だわ」
「……本気……?」
一転、青ざめて自らを抱き締めるようにする蓉子にふふふと微笑んであげた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよー」
聖と令。珍しい取り合わせだ。
「なんだ、祐巳ちゃんまだなのか。つまんなーい」
どっかと椅子に乱暴に腰を降ろし、ギコギコとやり始める聖。まことにお行儀が悪い。
しかしそんないつもどおりの聖の様子で蓉子は調子を取り戻したのか、てきぱきと聖にも仕事を分担させる。
「えー、こんなにあるのー?やりたくなーい……」
「しょうがないでしょ。仕事なんだから」
「祐巳ちゃんとお茶でもしてたいよ」
さっきの蓉子のように机に突っ伏する聖。
このいつもにも増してやる気のない様子……案外簡単に行きそうだ。でもまあまずはと思って顔をあげると、戸惑ったようにこちらを見ている令とちょうど目が合った。
「お姉さま、どうしたんですか?立ちっぱなしで」
「あら……ちょっと考え事よ」
同時にきた聖がとっくに腰かけているのに、私が立っていることに気を使ったのか令はまだ立っていた。どうやったらそんな器用なことができるのかしらないが、私より背が高い癖に上目遣いで機嫌をうかがうようにして椅子を勧めてくる。
令、最高に可愛いけど今日はちょっと取り込み中なのよ。
新たに階段を登ってくるひとつの足音を聞きながら、胸のなかで一人ごちて令に向き直る。
「ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン、タイが曲がっていてよ」
「え、お姉さま?」
するすると令のタイを解いてゆっくりと結びなおし始めるのと、ビスケット扉が開いて薔薇の館に新たな人物が入ってくるのは同時だった。
「ごきげん……え……黄薔薇さま、令ちゃん!?」
「あら、ごきげんよう由乃ちゃん」
「よ、由乃……」
「令ちゃん……何してるの」
「何って、ねえ?乱れたタイを結び直してあげるのも、お姉さまの役割よ」
パシ、キュと小気味いい音をたてて、黄薔薇さま結び完了。
「はい、出来上がり」
「あ、ありがとうございます、お姉さま」
由乃ちゃんがいるのに喜びを隠し切れずに結ばれたタイを見て頬なんか染めて礼を言うから。
「……令ちゃん、ちょっと来なさいッ!」
「え、由乃……ちょ、わ、制服のびる」
バタン!案の定だ。扉がしまる音を響かせて、令は来たばかりの由乃ちゃんにどこかに連れていかれてしまった。
よし、取りあえず二人掃除した。
あとは聖に祐巳ちゃん祥子に志摩子か……。まあこのへんは一気に片付くだろう。
視線を戻すと、相変わらず仕事をこなしている蓉子とだらだらと退屈そうにしている聖。
「うーん。そういえばなんかいい匂いがする」
聖が唐突に鼻をくんくんとやりながら言った。
「なんだろ、柑橘系かな?こういう匂い私好きなんだよね〜。どっかに芳香剤でも置いてるの?」
ピクッと蓉子が僅かに動きを止めて、ごく小さく微笑した。
……へえ。そういうこと。
「ふーん。聖ってそういう香りが好きだったんだ。私、知らなかったわ。ねえ蓉子?」
含み笑いをしながら意味ありげに蓉子の顔を覗きこんでやる。
「そ、そうね……知らなかったわ……」
今度はさっきと違ってビクッとして口元をひきつらせる。
「あれ、そうだっけ?蓉子にはなんか言ったような気もするんだけどなぁ」
聖の何気ない発言が更に追い込みをかける。
「らしいわよ?蓉子」
「そ、そうだったかしら……」
「まあ私の好きな匂いなんて蓉子にとってはどうでもいいことだよね」
「いや、そんなことないんだけど……」
しどろもどろになる蓉子の姿は見ていて新鮮だった。愉快愉快。
声をあげて笑い出しそうになるのを堪えながら窓の外を見ると、祐巳ちゃんと祥子が並んで、その数歩後ろに志摩子が連れ立って薔薇の館に近づいてくるのが見えた。
「聖、祐巳ちゃんと祥子が見えるわよ」
「え、ほんと?」
ガタッと音をあげて立ち上がり、横から窓を覗き込む。
「志摩子もいるね。じゃ、ちょっと行ってきまーす」
机に広げた書類をほっぽって、本当に楽しそうに駈けて扉から出て行こうとする。
「ちょっと聖!まだ仕事が」
「悪い、最近祐巳ちゃんの怪獣の赤ちゃん聞いてなかったから。あとは頼んだよ」
「たまには志摩子も一緒に相手したげなさいよー」
「ま、待ちなさッ……!」
私がダメ押しを言い終わるか終わらないかのうちに聖は出て行った。当然蓉子が呼び止める声なんぞ聞こえていないだろう。
窓に眼を戻すと、もう聖は祐巳ちゃんに抱きついている。なんて素早い。横でヒステリックに喚いている祥子の声がここまで聞こえて来そうだった。
「あはは、見てみなよ蓉子。祥子がいきいきしてるわよ」
「……」
むすっと不機嫌そうにしながらも窓際にやってきて下の様子を窺う蓉子。
聖はわたわたともがいて抵抗する祐巳ちゃんを右腕に抱えながら、志摩子を左腕でそっと抱き寄せ、ミルクホールと思われる方向に向かって歩きだした。何やら叫んでいる様子の祥子も当然同行する形になる。
「あらあら。幸せそうな姉妹の光景だこと」
人払いは済んだ。当分誰も薔薇の館には帰ってこないだろう。
「さて、マリア様のお導きでまたこうして二人きりになることができました」
「……何とぼけたこと言ってるのよ」
「何カリカリしてるのよ。せっかくの機会なのに」
「令と由乃ちゃんにイタズラしたときにオカシイとは思ったけど。まさか本気だったとは……」
今日何度目かになる大きく深い溜息をつきながら蓉子は頭を抱えて言った。
「あなたねえ、同性同士なんて……」
「狂ってるとかオカシイとかは言わせないわよ。片想いの紅薔薇さま?同じ穴のムジナじゃない」
「ッ……」
「逃げてもいいのよ?」
「逃げるもんですか。それに逃がすつもりなんてないくせに」
「ご名答ー。まあ、あとで仕事は一緒にやったげるからさ。たまには私にも年貢を納めてちょうだい」
「はぁ……。いいわよ。好きにしたら」
蓉子は椅子に足を投げ出すようにぞんざいに腰を降ろした。
「あらあらあらあら。ダメねえ。紅薔薇さまともあろうものがそんな態度じゃ。もっと燃えさせてくれないと」
「どうしろっていうのよ……」
「立って」
しぶしぶといった感じで立ち上がった蓉子の肩を掴み、口に切りそろえてある髪があたるほどに顔を近づけて聞いた。
「優しいのと激しいの、どっちが好み……?」
「そ、そりゃ優しいほうが……」
「ふーん。じゃあそうなるようにがんばる」
掴んだ肩をそのまま押していき、ダンッと音が出るほど勢いよく壁に押し当てる。
「きゃ、ちょ、ちょっと……激し……!」
抗議の声をあげようとする唇を唇で塞いだ。
「んんんっ……!」
柔らかい。他人のくちびるはこんなに柔らかいものだったのか。唇を押し付けて唇で食んで、舌の先でつついて、その柔らかさを確認する作業。心地よい弾力が私の唾液でぬめっていくのが、唇を唇で挟むとよくわかった。
「ふはっ、はぁ、やめ……んん!」
弱めの愛撫だったからか、まだ抵抗できるとふんだ蓉子が声をあげようと口をあける。しかし私はそれを好機とばかりに深く舌をさしこんだ。
つるつるの歯の裏と、生物で習った外胚葉と内胚葉の分かれ目である前歯と喉の間にある柔らかいところと硬いところの境を舌でなぞる。人間の体の境目はたいてい敏感にできている。ここも例外ではないだろう。
現にやわやわとそこばかりをなめているだけで、次第に蓉子の体の力が抜けて私を押し返そうとしていた腕が垂れ下がり、奥にひっこんでいた舌も弛緩するように前にでてきた。
「んっ……ふっ……」
顔を斜めにして深くあわせ、蓉子の舌を引き出した。
ぬめらせた唇で吸い取るような、しごくような動きをする。
「……はぁ、ぅ……ぷ……」
あふれたお互いの唾液が絡み合って顎を伝い、鎖骨に冷たい感覚をもたらす。
流れ落ちる唾液とあわせるように力の抜けていく蓉子の体はずるずると重力の方向に従い壁をこすり、スロー再生で床に崩れ落ちた。
完全に座り込んでしまった蓉子の肩に手を回し、一旦唇を離す。力が抜けているのかすぐ体重を預けてきた。
「ふあ……」
紅潮した頬と潤んだ目。半開きの唇の端から垂れている唾液。
背筋がぞくぞくした。誰か、普段の蓉子しか知らない人にこの表情を見せてあげたい。嗜虐心を共有してもいい。半ば本気でそう思った。
「どうしてそんなに巧いのよ……。こんな簡単に……力、抜けて……」
「……こんなつもりじゃなかった?好きでもない相手とキスしても感じることなんてないと思ってた?」
「そう思ってたんなら、思い知らせてあげる」
「ん……!」
うろたえるように視線を伏せた蓉子の両耳を手で塞ぎ、また唇を重ねた。
今までよりさらに激しく、殊更に水音を立てるキス。
耳をふさいでいるから口中の音が外に出る隙間はない。蓉子の頭のなかでは、お互いの淫らに粘性を持ってしまった唾液の絡み合う音だけが鳴り響いているだろう。
「ぷぁ……はぁ、はぁ、今の、何?何なの……?」
たっぷり数分間、自分の口の中の音しかない世界を味わせてから唇を離してやると、蓉子はうわ言のように呟く。口の端からおびただしい量の唾液が伝っててらてらと濡れ光っている首筋や鎖骨。
「あなたの音よ……」
汗で張り付いた前髪をかきあげてやる。
今ので完全に火がついたんだろう。その時に額に指が少し触れただけで、蓉子は熱い息をはいて小さく震えた。
垂れている唾液を舐め上げてふきとってやる。下から上に、胸元から。濡れて光っている部分に息がかかるたびに、蓉子は敏感に体を震わせる。舌が首筋に達すると、あのシトラスの香りがした。聖の好きな香り。
「ほんとにいい香りね……」
「い、今はそのこと、言わないでよ……」
「まあ。一途ですこと」
色々な皮肉をこめて言い、なめとる間に口にためた唾液を舌で歯の裏にもっていく。強く蓉子の両頬を抑えながら唇を重ねてそれを舌で押すように流し込んだ。
「んん……ッ!」
嚥下するまでそのまま唇を重ね続ける。蓉子は何度かこちらに押し返したり吐き出そうとしたりしていたが、やがて観念したかのように目を硬く閉じると喉を鳴らした。
「ふはっ、はぁ、はぁ、はぁ……」
飲み終わると異様な熱さと乱れを含んだ息が吐き出される。まるでマラソンの後のようだ。
「……おいし?」
「はぁ、はぁ、……わかん、ない……」
さっき目を硬く閉じたせいで、潤んでたまっていた涙が溢れて筋を作った。
「私は蓉子の、甘いと思うんだけどね……。じゃあ、気持ち悪いと思った?嫌な味がした?」
涙を親指ですくいあげ、それを蓉子の眼前で口にもっていって舐めた。
「……わかんない」
「じゃあ、わかるようになるまで味わって」
再び深く唇を重ね、口内を唾液をたっぷりと含ませた舌で蹂躙した。
ぺちゃぺちゃとはしたない水音が再び部屋に響いた。
私ってこんなに唾液が出る体質だったっけ?
でもなぜだかさっきから唾液がたまってたまって仕方がない。まるで餌をおあずけされている犬のようだ。まあ全部蓉子に流し込んでしまえるから好都合といえば好都合だけど。
もうさほど抵抗しなくなった蓉子の半身をもたれかかっている壁からずらし、床に横たえるようにしてさらにぴったりと唇を重ねる。流しこめば流しこむほど、こくこくとなる喉。私の分泌しているものが蓉子に入っていく。入る度ごとに支配欲が満たされるような充足感が頭に満ちる。
飽きるほど流し込んでからふと思いついて、顔を離した。
「口を大きくあけて」
「……?」
蓉子はとろんとした目でア、と口をあける。
そのうえから顔を離したまま、口を半開きにして唾液を垂れるのに任せて蓉子の口のなかに落とす。
私もそうとう興奮しているのだろう。長く糸を引くいつもより格段に粘った唾液。
自重にたえきれなくなると、ふつりと切れて蓉子の口のなかに落ちていく。パタパタと落ちる唾液をただ受け入れている蓉子のいつもの強さがない表情に背中一面に鳥肌が立つ。自分の唾液が蓉子の口の中に溜まっていく様子と、それが飲み込まれる様子がよく見えることにお腹の奥がうずいた。
「……おいし?」
再び聞いてみると、嘘か本当か、今度はゆっくりと頷いた。
「ま、まだするの……?」
「そうね。もう少し」
もっとしていたいが、度が過ぎると惨めになってしまうだろう。私も蓉子も。
でも、もう少し。
制服の上からブラのホックをはずして下にずりさげる。
「こすれる……」
蓉子の呟きを聞くまでもなく、制服の生地の下に硬くなっている突起を感じた。今更ではあるが自分の行為が快感をもたらしていることの証明に改めて安堵を覚えた。
そのまわりをまだまだ溢れ出る唾液で濡らしていく。舌で触れて唇で包んで、深い色の制服を水分で更に深い色に変えていく。
ほどなくして、水分を得た制服が胸の先端に張り付いてその形を露にした。
「ほら、見て。形がわかる」
「…………」
固定された視線と長い沈黙が雄弁に蓉子の心情を語っていた。
「んぁ……くっ」
浮き出た乳首を口に含みながらスカートのなかに手を入れる。殆ど抵抗なく、指はしとどに濡れた下着に達した。
「ふあぅ……!」
そのまま軽く触れて布越しに形をなぞっただけで蓉子は嬌声をあげる。さっきまで唇やら胸やら、さんざん愛撫していたせいだろう。このぶんだともうすこしで達しそうだった。
色んな意味でちょうどいい頃合かもしれない。
そう思って指をなぞる作業を早めた。
「んッ……あ、ぅあ、あ……」
ただひくついていただけの体が、次第にある周期を持って反応するようになってくる。同時にいつまでたっても触れられない一番敏感な個所をゆするようにもどかしげに脚を動かし、私の背に回した腕にギュっと力が篭められる。
「触れて欲しい……?」
瞳を潤ませたままこくんと頷くのを見ると同時に、指の腹でそこをリズムをつけて何度か強く押した。
「ぅ、く、ああああぁぁぁ……」
蓉子が目をぎゅっと瞑って絶頂の声をあげるのを見て、満足感からか私も軽く果てた……。
———————。
「ねえ」
「なに」
「こういうこと……よくするの?」
「さあ。どう思う?」
「……好きでもない人間にもこういうことってできるものなのかしら……」
「何言ってるの。できるわけないじゃない」
「え?」
「同性。片思い。つくづく同じ穴のムジナよねえ」
「そんな……」
「これで聖が私のこと好きだったら完璧ね。閉じた輪の完成」
「……本気か冗談かわからないんだけど」
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